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※毒親、暴言、暴力注意です。鬱展開多いです。


世界観も雰囲気で、あー、魔物出るんだー、魔法使いいるんだー、全然出てこないけど雰囲気で察して下さい。


クズキャラがとことんクズです。





「お前、友達いないだろ?」



生前父親から言われた言葉。





中学生における反抗期の時期だったと思う。

公務員の父は定時帰り、家に帰るのは深夜。その間ギャンブルを行い金を湯水のように消していた。



母はいつもお金がないと嘆きながら安い肉を買いに走り、いつも硬い肉だった。

お風呂も浴槽の半分設定で家族五人。シャワーは許さず父と兄以外の最後の私、母、弟は数センチにも満たない湯を必死にかき集め体を洗い、水で増やしたシャンプーを数プッシュさせて髪の毛を洗った。



母の扶養ないバイトの給料は母の実家の親族の祝い事に消えていた。

いつも実家の悪口を言う母。私にとっての祖母や実兄妹の悪口を言いながらも親族行事に参加する母。

いわゆる農家で。

そんな環境を物心ついた時から嫌気がさしていた。

それと同時にいつも新品の洋服で現れるいとこ達に会うのが嫌だった。




クサイ、と、虐められたのは小学校高学年で。

理由を話しても金がないの一点張り。学校に行きたくないと伝えても理解できない顔をする母は最後は酔った父に報告して兄弟達の目の前でゲンコツを喰らわされる。



中学生に入る頃には対人恐怖症に陥っていたと思う。

小学校からの持ち上げの同級生達が中学の新しく出会う同級生に私のことを話して。

入学してすぐに一人になった。



ある日、担任との面談で言われた言葉。

「貴方は結果ばかり気にするのね。過程は大事よ。ゆっくりでいいからじっくり考えてみて」


違う日、父から怒鳴られた。

「お前の話はイライラする!結果を話して説明すれば良いだろ?言い訳をした後に話しても信憑性に欠ける!だからお前はバカなんだ!」



どっちを信じたら良かったのだろう?



気がつけば言葉を交わすことさえ躊躇う事になった。



中学生最後の年。

いかにも体育会系の教師が高校生になる心構えを話していた。

「勉強はきっちりして後悔のないように!部活や仲間達を大切にして協調性を持とう!」

ほとんど白けた目で見ていた。



私もその言葉を聞いて。


(高校に入れたらすぐバイト始めて自立するためのお金を貯めよう)


心に決めていた。




その時期には親友と呼べる友人はできていたのに。



「お前、友達いないだろ?」


卒業式が終わった後。

自宅で珍しく酒を飲んでいなかった父が悪びれもなく伝えて来た。


「あんたはいつも主語がないから言いたいことがわからないわ」


玄関からリビングに来た母も父の言葉に乗っかって私を見ながら。



耐えきれないと思って制服姿のまま駆け出した。



そして、歩道橋の柵の上に立ち。



そのまま飛び降りた。



私の死体処理に実親は苦しめば良いのに。



そう思いながら。







死んだはずだった。

何故か目の前が真っ暗だったのに明るくなって。

目を覚ますと知らない場所だった。

視界がしっかりして来るとドアから現れたのはコスプレメイド。

サーシャお嬢様!と、コスプレメイドは言って近づいて来て。

私に顔色が良くなってますねと鏡を見せてくれた。




友人がハマっていた乙女ゲームの…悪役令嬢がそこにいた。




自分の置かれている状況を把握するのはさほど時間が掛からなかった。

友人がスマホで見せてくれたプレイ動画の幼少期だろう。

青みがかった銀色の髪の毛。この世界では珍しい魔力持ちの赤い瞳。悪役令嬢と言えば吊り目多いよねと、友人は言っていた。

違和感あるタレ目の美少女。



ヒロインのシーラがやって来るまであと数日を切っていた。


父の後妻としてやって来る継母の連れ子の一人。

…まぁ、父がサーシャの母が生きてる時に不倫して出来た腹違いの妹だけどね。 

男爵家の夫人と恋に落ち不倫が男爵にバレたため、長男を置いて次男とシーラを連れて我が家にやって来る。男爵から妻を金で買い、連れて来る流れだ。



愛する人との子供を可愛がる父の目を盗んでシーラをいじめるサーシャ。

第二王子の婚約者もシーラを指名していたがサーシャがこの家、魔導団長の父がいる侯爵家の長女と主張して無理矢理婚約者の座に就く。


あとはありきたりの展開で。


相思相愛になった第二王子とシーラに断罪されるサーシャ。

攻略キャラは確か第二王子入れて四人。

騎士副団長息子、宰相息子、医療団長息子と側近揃い組だ。


しかもどのルートも絶対最後は第二王子エンドでサーシャは地下牢獄行きなのだ。


転生したのだろう。

きっと死に方が良くなかったのだろう。


(もう、生きるのに疲れたな…)


小さな手を見てため息をついて。

転生前と違うのは環境の違いか。

サーシャは断罪されるまでお嬢様暮らしだった。




(せめてサーシャとして断罪されるなら…)



今世は好き勝手に生きてみよう、と、心に誓った。






始まりの日はあっという間にやって来た。

執事長がサーシャを呼び、実父が領地から帰って来たと。

出迎えを玄関ホールでと言う事で足を進め、動画プレイでも見覚えのあるワンシーンに突入した。


(領地から帰って来たはずなのに女と子供二人連れて来たら使用人は驚くわよね、普通)


当主の帰りに使用人一同ざわめきを隠さず、サーシャは焦る執事長に連れられ使用人達の前に出る。

あっという間に父の前に現れたサーシャに気まずげにしながらも新しい家族と話し出す父。


ここが元祖サーシャなら癇癪を起こし怒鳴り散らすところだろう。

別にこの父親に私自身未練はないし、愛情も求めてない。最低限の裕福な生活を死ぬまでさせてくれたら良いと落ち着きながら微笑し、新しい母とその兄妹に頭を下げた。


「サーシャと言います。これからよろしくお願いします」



子供らしくない優雅なお辞儀をした後に。

一つお願いをした。


「私、家族ができて嬉しいですわ!あの…お母様と呼んでも良いでしょうか?」


父からサーシャの話を聞いていたのか?新しい家族達は皆驚き、流されるまま母となる後妻はうなずいた。

「よければお兄様とそちらの…妹になるのですか?お名前を教えていただきたいのですが?」

笑顔を崩さず後妻を見、「む、息子のカイゼル七歳、娘のシーラ五歳です…」と辿々しく説明した。


サーシャが六歳の…シーラの物語がスタートした。





シーラ達がやって来て一週間。

表面上は何事もなく平穏だった。


しかしいきなりやって来た家族に使用人達はすぐに戸惑いを覚え。

…何故怒りの吐口をサーシャに向けるのか?




「いきなりあんな底辺を連れて来てご主人様は何を考えているのかしら?」


「あのシーラって子供ご主人様やサーシャお嬢様と一緒の赤い瞳でしたよね?…もしかしてご主人様の隠し子ですかね?」


「あのカイゼンって子、礼儀知らずで無愛想でずっと黙ってばかりなんですよ?!」


最後につく言葉は「サーシャお嬢様が可哀想じゃないですか!」



勝手に人に同情するなと内心冷めた目で見ながら部屋を訪れる使用人達の話を聞いた。

そして普通にカイゼルの名前を間違えてる彼ら。覚える気がないのだろう。

初日に父から説明があったはずなのに。

男爵と離婚した人を迎えたと。

後妻の元夫は前妻との間に長男がいて、離婚後彼女を迎えカイゼルとシーラができた。とある理由で離婚したので自分が連れて来たと尤もらしい言い方をしながら、使用人達を説得したと思い込んでいるのだろう。




焦茶色の髪、空色の瞳のカイゼルに、後妻そっくりの髪色のシーラ。隠す事なく赤い目をしていて。以前は翠色だったと空気を読まずに夫人が発言した事で、突然変異で赤目に変わったシーラを父の子だと疑うのは当たり前の結果だった。



シーラと夫人は同室で父もよく訪れていると話す使用人。

やっぱり最後に出るのは「サーシャお嬢様が可哀想」と言う一方的な憐れみ。

以前の彼らはサーシャの事をわがままな子供だと軽蔑していたのに。


憐れみか、はたまた都合の良いシーラ達を虐める傀儡を作り上げる事を考えているのか。



サーシャは髪の毛を解かされながらゆっくり目を閉じた。






「サーシャお嬢様はとても優秀ですわ!…それに比べて…」


ある日の家庭教師の授業。

父の計らいでサーシャを始めシーラとカイゼルと部屋で勉強をしていた。


中身が違うのだから理解も違う。

そもそも生まれ持った環境も違うしスタート地点も違うのだ。

サーシャはわがままだったが飲み込みが早い少女だった。いわゆるボス補正が入ってる。


魔法を使えるのは一部貴族だけで、設定上ヒロイン補正が入ったのかサーシャの家紋、チューラップ侯爵家は国の中でもトップクラスの実力だった。だからこそ陰湿な嫌がらせを魔法を使い痕跡が残らないようにサーシャは行っていたのだが。



「サーシャお嬢様がお可哀想ですわ!こんな者どものために授業の遅れをとるなどと!」


可哀想。

そう言って同情するようにサーシャを見た目の裏には。


早く、この二人を貶してくれと、サーシャに懇願しているように見えた。





ふぅ、と、ため息をついてサーシャは羽ペンを置き。

肩を震わせるシーラ。訝しむカイゼルを無視して家庭教師に微笑む。



「貴方は今日で解雇ね。今までご苦労様でした」


ありえないとでも言いたげな家庭教師の顔を見ながら笑みを止め、怒りや呆れを孕んだ瞳に切り替える。



「カイゼルお兄様とシーラは我が家の者ですよ?元々違った環境で育ち個人差があるのに私と比べないでください」


そもそも、と、呟きながらシーラの問題用紙を両手で掴み。

「このシーラの数式は私が当時三歳の時に使用したものですわ。しかし、教育方法が違ったでしょう?当時は棒を用意して合わせたり外したりして道具を使って学んでいましたわ。理解できないシーラに問題だけ渡して解いてみろ、だなんて図々しいにも程があります」

そして普通ならこの勉強はカイゼルよりもっと年上の世代から始める勉強だ。

純粋に今のサーシャのレベルに合わせたら十五歳から十八歳まで通う学園レベルだ。

それを五歳時にやらせるとは鬼畜この上ないだろう。



「カイゼルお兄様の勉強もおかしいですわ。読み書きの基礎ではなく語文作成など七才の子供にやらせるものではありませんわ」


「し、しかし、サーシャお嬢様はこれを四歳で解いてましたが…?」



「ねぇ、人は誰しも得意分野があれば苦手な分野もありますよね?私は武術ができません。でも知識は学ぼうと思います。医療魔法も少ししかできません。医療知識もありません。先生はシーラとカイゼルお兄様が私と同等に出来ないとおっしゃいましたよね?では私が知らない医療知識を先生はご存知ですか?私が武術に興味があると言えば貴方は教えてくれるのですか?」



万能な人間なんていないのだから、無理がある。

顔が青ざめ始めた家庭教師を見下ろしながら、前世で聞いた言葉が耳に流れて来る。



「貴方は結果を早く出して欲しいのですよね?私は運良く貴方の授業についていけてましたが、過程より結果を見てましたよね。陰で私がどんなに復習を行なっていたとしても結果だけが全てでしたよね」

サーシャは復習なんかしなくてもできる子だったけど。



唇を噛み締めながらシーラを睨みつけた家庭教師。

すぐにベルを鳴らし執事長を呼ぶよう待機させていたメイドに指示を出す。



現れた執事長に、傲慢かつ声を荒げてサーシャは。



「この女を即解雇して!」


声を張り上げながら伝えた。





家庭教師の件から数日後。

長年サーシャを世話して来た…悪役令嬢になるサーシャを甘やかした元凶の乳母が苦虫を噛み潰した声で話して来た。



「邸の者は皆お嬢様の味方ですよ。当主様も酷いものですよね。サーシャお嬢様がいるにも関わらずシーラと言う女を可愛がって!しかも最近では執事長もあの親子を庇うのですよ?!」

お嬢様どう思われます?!と聞かれ、確かゲームの中では執事長だけが父親と後妻の関係を知ってるんだったなと脳内で整理する。




シーラの母はサーシャの父と元々は恋人同士だった。ところがシーラの母は実家の子爵から売られ成金の男爵の後妻に無理矢理される。サーシャの父も政略結婚してもなお夜会などで密に逢引きを重ねていた二人。

一見するとドロドロ関係だが、サーシャの母は産後数ヶ月でこの世を去った。元々体の弱い女性だったらしい。

シーラが生まれてしばらくは平穏な生活をしていたがシーラの瞳の色が変わると男爵はサーシャ父に取引を持ちかけた。つまり金銭の要求だ。次男のカイゼルは男爵の子供だったのだが、隔世遺伝の影響で男爵にも後妻にも似ていなかった。シーラの件がありカイゼルもお払い箱になり三人を金で買った父は自分の幼少期から世話になっている執事長に相談して受け入れたと言う裏話がある。


ちなみにゲームではカイゼルは一切出てこない。名前表記だけあるモブキャラであった。



何故カイゼルの話になったかと言うと乳母がカイゼルの名前を口に出したからだ。


「カイゼンは無口で不気味で部屋に閉じこもってばかりなのです。もう侍女達もアレの面倒を見てませんよ!当主様はあの二人にご執心ですからね。あぁ、サーシャお嬢様が可哀想ですわ!!」



家庭教師も変更して再雇用に時間がかかると言う。

普段から食事も別々で、正直言って後妻とはあまり会っていない気がする。



(いやいやいや?!自分の子供でしょ?!放置なの?!普通にほったらかしなの?)


ありえない、と声を出したのを聞き取ったのか。


乳母が嬉々として「そうですよね?!お嬢様を差し置いてこの家の娘になろうなんてありえませんよね?!」と口ずさむ。



違うと、眉を顰めながら乳母を睨み部屋から出て行くよう指示をした。



「もう私は寝たいの!!」



昼の四時の出来事であった。




深夜。

サーシャは起き上がり湯船に湯を張り部屋を出る。

目指すは厨房で、冷蔵室からソーセージや卵を掴みフライパンと火魔法を使い簡単な軽食を作り誰も通らない廊下を歩く。



古びたドアの前に立ちノックをした後出て来たのは痩せ細った焦茶色の少年。

驚く少年を無理やり部屋に戻し、部屋の明かりをつけ…灯かりすらついてなかった。

心なしかカーテンもスカスカで、どう見ても下僕扱い。下手な使用人の部屋より扱いが酷く、思わず息を吸い込みながら、状況を飲み込めないカイゼルにお盆を手渡した。



「ねぇ、いつからこうなの?」


いつから、と言うよりも最初からだろう。

物置部屋に家具だけ片付けてベットが置かれただけの部屋。


「ねぇ、ちゃんと食べてるの?」


シーラ達が来てから使用人達が意図的に部屋で食事を勧め出したサーシャ。

流されるまま、受け入れたサーシャ。


「食べてるよ。…母上とお茶を飲むときだけ」


最後に会ったのはいつだろうか?

彼の腕は少し骨が見え、目は虚に。


同じ邸の中にこんな場所があるなんて知らなかった。


黙って不気味、ではなく、黙るほど過酷な環境。不気味なのは栄養失調。



目の前の少年は。



今にも消えそうだった。





「おぼんの食事、カイゼル兄様のだけど…その前にちょっと良い?」

おぼんを収納魔法で消し、驚くカイゼルをよそにサーシャはカイゼルの荷物の中から衣類を手に持ち次々と収納していく。


手首をつかみ、呪文を唱えると見覚えのある自室に早替わりした。


「あの…君はなんでもできるんだね…」

多分元祖サーシャはできなかった事だ。私だから魔法を想像して完成した自己流の魔法。

サーシャの能力は現魔導団長の父を遥かに超えていると自負している。


「みんなに秘密よ!家族にもね!!」

もしも何かあったときの保険だと喉から出そうになるセリフを呑み込み、両手を差し出すとおぼんが現れた。



「食べて!それからお風呂入って!」

ほぼ命令に近い声音で怯えるカイゼル。

埒があかないと口を開けと言いながら軽食を次々と放り込んでいく。

素直に言う事を聞く彼にオレンジジュースを飲み干すよう指示を出したら脱衣所まで連れて行って風呂に入るよう促す。



「あの…、もし体を洗って浴槽が汚れたらどうするの?」

そんなに風呂に入れてないの?!と驚きながら気にするなと伝え。


浴室に置き去りにしたカイゼルの衣類を取り出すと。


…長らく使い回したのだろう。ボロボロになっていた。

下着はかろうじて使えるのか。毎日使い回して洗っているんだろう。

パジャマどうしよう…と思いながらふと気付く。





「ねぇ、本気でこれ着るの?」


「大丈夫!私しか見ないから!!」

ドア越しに聞こえる悲鳴にも似た声にサーシャは呑気に答えて数分。


紺色のワンピースを着たカイゼルが恥ずかしそうに立っていた。

やっぱり同じ身長だったから違和感ない!


強引に手を引き寝室まで案内するとベットに引っ張り部屋の明かりを消す。



「…普通ダメでしょ?!」

体力が付いたのか暗闇の中で手を離そうとするカイゼルにサーシャは面白そうな声を出す。


「良いのよ、どうせ朝になってもメイド達は来ないから」

可哀想と同情しながらも自分達の都合の良い吐口が欲しい時しかサーシャを求めてこない。朝は基本忙しく呼び鈴で鳴らさない限り現れない。

味方、と言いながら我儘なサーシャを利用して後妻とシーラに当たり散らしたいだけなのだ。だって、男やもめの父の後妻の座はメイド達が水面下で狙っていたことは察しがついていたから。





「しばらくここで暮らす?私の部屋他にも小部屋あるから誰も気づかないわよ」

子供一人に大きすぎる部屋。

使う箇所は決まっているのに、無駄にある空き部屋。

その空き部屋でさえ、カイゼルの部屋とは全く違う。




「どうせ、あの部屋には誰も寄りつかないでしょ?」

その言葉に微かにシーツの動く気配がした。


「それとも男爵家に帰りたい?」

実父がいるものね、と声を出したが最後。



カイゼルの啜り泣く声が聞こえた。





「あの場所にも居場所はないよ。ここでも僕は居場所がない。いっそのことどこかへ消えたい…。誰も必要としてくれないから。母さんはシーラばかり可愛がるんだ。最近母さんに会うことすら躊躇いがあるんだ」


きっと陰でみんな僕のこと嫌ってるんだ、と声に出したとき。



思わず体を擦り寄せ抱きついた。



「わ、私はカイゼルお兄様の事嫌いじゃないよ!」



過去の自分に言い聞かせるように。




前世の家族は一人がいなくなると残った者達で悪口を言っていた。

兄が居なくなると兄の悪口を母が。同調するように私も話していた。

兄は乱暴な人間だった。怒りやすくてよく兄弟喧嘩をしていた。

弟は体が弱かった。体の弱い弟を一際母は気遣い、私のことを後回しにされた。


父がいなくなると父のギャンブル癖の悪口が始まり、母がいなくなるとノロマなどと父が率先して笑っていた。



因果応報だろう。

私が図書館で友人と遊び帰って来た時に皆揃って私の悪口を話していた。



今置かれてるカイゼルの状況は…。

彼は何も悪くないし、誰にも何も話せないまま萎縮している。


悪くない、のに。





自然とポロポロ涙腺が緩み、大好きだからを繰り返す。



「カイゼルお兄様は私と家族だもの!家族はね、なんでも話せるんだよ」

父の件で割り切ったと思ったのに、支離滅裂だ。



「あの…サーシャ様…」

「さーしゃ!」

拙い声が出ながら懸命に繰り返す。



もう、大丈夫だよ、と。





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