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いつかきっと、やさしくなれる。

作者: 白雪真守

誰にも愛されないから死にたいと思った。今まで生きてきた人生のなかで、自分のことを誰も理解してはくれないのだと学んだ。それは悲しかったし、「あぁやっぱりか。」とも思った。僕はそんなことを考えながら雨道を歩く。1歩ずつ、のったりと。てく、てく、てく。傘は僕の心の中の色みたいな深くて濃い藍色のものを使っている。同時にそんな色の傘を僕は好いている。だから僕は、僕のことがまだ好きなのかもしれない。ふと、昔、高校生の時に入っていた美術部で同じようなことを思い出した。僕は無意識に、いや必然的にいつも、藍色が主となる絵を描いた。その中には雲ひとつない晴れた空みたいな水色も微かにある。堪らなく、心惹かれた。僕はその時、そんな微かな空の匂いを嗅ぎたくて、たちまち鼻を近づけて息を吸い込んだ。突発的な行動だった。だけどただ、生臭くて、無機質なアクリル絵の具の匂いが肺に流れ込んだ。少し、気持ち悪かった。ちょっぴり涙も出た。刺激臭と、僕が思い浮かんでいる世界なんかどこにもないのだと結論づけられたみたいな絶望感。「うぇっ。」と思わず嘔吐いた。なんでこんなに世界は僕に意地悪なのかな。なんだか、大好きな絵を描くことにすら僕は許されていない様な気もしてきた。ここまでの話を聞くと僕って変人だと思わないかい?君よりも僕の方がずっとそうだと思ってる。自分のことは自分が一番理解している。他人なんか、僕のつるつるなアクリル板みたいな表面しか見ていないからなーんにもわかんないんだもん。それなのにさ、僕のこと知ったような口を聞く。ゴミを見るように僕を見るんだ。「うわっ!」心臓から血流がドクドク流れ出る。冷や汗もかいた。先生が僕の後ろに立っていた。美術部の顧問の樹美子先生は本当に気配がない。逆三角形みたいな眼鏡をかけて、おばちゃんみたいなショートパーマでいつも水に溶かした墨汁みたいなコントラストの服を着ている。樹美子先生は、僕の絵を腕組みしながら黙って見つめて数秒後、「暗くて不安になる絵だなぁ。」と僕に言った。「絵はな、描く人の心を映す鏡だから、これはあんたのこころの色だな!」とだけ言ってまたどっかに行った。本当に変わってる人だ。苦笑しながらそう思った。こころがじくじく痛い。同時にまた、じわりと瞳の中に涙が溜まる。鼻もあつくなってきた。はぁ…。僕はまた泣いている。こどもなんかじゃないのに。恥ずかしいなぁ…。絵は冷たくありながら、それでいてぼくに静かに寄り添った。この絵を完成させなきゃな…。と焦る気持ちもあってなんだかまた、疲労感が襲ってくる。ペインティングナイフで絵の具をバターのようにすくって、トーストであるキャンバスに乱暴に塗りつけた。今はまだ柔らかいけど乾いたら絵の具は硬くなる。乾く前に造形する。絵が僕を優しく見守る中、僕は絵と向き合った。絵は自分のこころを映す鏡だから。なんだかさっきの言葉が妙に、こころに刺さって、絵から目をそらすことが出来なかったからだ。青白い蛍光灯が僕を照らし、絵の具の付いたペインティングナイフがキャンバスに擦れる音だけが部屋に響いた。

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