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前編

わたくしは、この国で伯爵位を賜るデイドストーザ家の長女・サナーリア。本日は、6年通った貴族学院の卒院式の日です。


卒院式には、他学年の生徒はもちろん各家の両親や親族、王立貴族学院なので王や王妃も参列なさいます。

会場内は煌びやかに装飾され、豪華なお食事も並びます。


メインイベントは卒業生による華やかなダンスです。卒業生同士がペアを組み踊りながら皆でフォーメーションをとっていくという、とても見応えのあるイベントです。


わたくしと婚約者様は、センターで踊ることになっています。ソロパートもありますのよ。ソロ…と言いますか、ペアパートですかしら?


メインイベントが始まるまでは、皆様立食パーティーを堪能しています。

そんな中、ずかずかとこちらにすごい剣幕でやってくる男女がいました。



「サナーリア!」


「まあ…」



いきなり呼び捨てられ、私は唖然としてしまいます。このような場で、そのように大きな声で令嬢を呼び捨てるなど、マナー違反どころの話ではございませんもの。



「お前との婚約は、破棄させてもらう!」


「えっ?」



いえ、わかっています。とても厳しい淑女教育をきちんと受けていましたから。わかってはいるのですが、あまりにも鋭利な角度からのとんちんかんな宣言に、思わず動揺してしまいました。しかし、取り繕うようになってしまいましたが、慌てているのを悟られないように、持っていた扇子で口元を覆いました。



「婚約、破棄ですか?」


「そうだ! お前はここにいるトリステルに嫉妬して数々の嫌がらせをしてきただろう! 婚約者であるオレが、お前の妹である彼女に親切にしていたのが気に入らないと! 教科書を破り捨て、マナーがなっていないと叩き、グランドに近寄るなと階段から突き落としたそうだな! 言い逃れはできないぞ。すべてオレの知るところとなったのだからな!」



どこからつっこめばいいのかわかりませんが、とりあえず状況を整理しましょう。

とんちんかんなことを言っているこの方の後ろで震えている女性が“トリステル(妹)”さんでしょう。その名前には聞き覚えがあります。


わたくしがデイドストーザ伯爵家に引き取られる前にいたザバラン子爵家。実父がだらしなく、仕事もせず女性と遊び歩いていたことから実母は心労で倒れ、わたくしが幼い頃に亡くなりました。

すると実父・ザバラン子爵はお葬式後間もなく、わたくしと同じ歳の女児を連れた商家の娘・ジルを後妻にと連れてきました。

その女児の名前が確か“トリステル”だったと思います。


思います、と不確かなのは、それがもう10年以上前の幼少期のことなのではっきりと思い出せないのです。

わたくしは、『そんな環境に置いておけるか!』とお怒りになったおじいさまに、ザバラン子爵の兄であるデイドストーザ伯爵家の養子になるよう言われ、引き取られました。


兄弟の仲はとてもではないけれど良いとは言えず、学院卒業となるこの歳まで親戚付き合いは皆無でしたもの。忘れてしまっていても仕方ありません。



「おい、聞いているのか?!」



聞いていませんでした。わたくしが思考している間も何やらトリステルさんにした虐めがどうとか言っていらしたようですが、全く聞いていませんでした。


さて、トリステルさんのことは思い出しましたが、こちらの男性はいったい誰なのでしょうか。婚約者と言っていましたが、名前も知りませんしお会いしたこともございません。


聞いてみるしかありませんわね。



「すみませんが、発言しても?」


「っな! …い、いいだろう。言い訳があるなら聞いてやる」



お話中でしたのに遮ってしまうのはマナー違反ですが、延々と終わりそうもないのでそうするしかありませんでした。

一応、発言の許可をいただいたので、もしこの方が上位貴族のご令息であっても不敬にはなりません。許されずにもの言うことは、マナー違反ですからね。



「大変申し訳ございませんが、貴方様はどちらさまでしょうか?」


「…は?」



ほかに聞きようもなかったのでストレートにそう言いました。お相手様はぽかんとしたお顔をされてしまいましたね。申し訳ないです。



「ど、どちらさま?」


「ええ。申し訳ないのですが、思い当たらなくて」


「なっ!」



ご気分を害してしまうのは仕方ありません。『あなた誰ですか』なんて言われて良い気分になる方なんていらっしゃらないでしょう。

しかし、そんなに憤慨なさらないでもよろしいのではないでしょうか。



「オレを知らないだとでも言うのか?! お前の婚約者だぞ!! ザバラン子爵家長女・サナーリアといやいや婚約してやったブロー伯爵家のグランドだぞ! 下級貴族が生意気な!!」



ブロー伯爵家。領地に鉱山を持っているから安定しているけれど、領主である伯爵がなかなかの能無し、だったかしら?強欲?で、とにかく領民から嫌われているのでしたっけ。確かそんな話を聞きました。

伯爵家のご令息でしたか。ならば同等位ですわね。



「子爵家無勢が伯爵家のオレに随分な言いようだな! 不敬だぞ!」


「ブロー令息、何か勘違いなさっておいでのようです。」


「は? 勘違いだと?」



勘違いだらけすぎてめんどくさいですわね。全部否定していかなければならないのでしょうか。このままというわけにはいかないので、わたくしはしぶしぶといった思いでため息を一つこぼしたのでした。




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