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高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話  作者: らいお
第一部

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後日談④-オヤジたちの秘密基地計画

 蝉の声がうるさいほどに響く、真夏の週末。

『Farm Cafe Katze』の営業終了後、俺たちは店の裏手にある雑木林の入り口に集まっていた。


「……で、いきなり呼び出して何なんですか、松田さん」


 俺はタオルで額の汗を拭いながら、目の前に仁王立ちするスキンヘッドの巨漢を見上げた。

 松田さんの横には、なぜか作業着姿の青央さんと、GoProを頭に装着したてんちょーもいる。


「おいおい喜多、見てわかんねぇか? この立派なクスノキをよぉ」

「はぁ。立派ですね」

「この枝ぶり、この太さ……どう見ても『作れ』って言ってるだろうが」

「何をです?」


 松田さんはニカッと笑い、少年のような瞳で言った。


「ツリーハウスだよ! 男のロマンだろ!?」


 ◇


 事の発端は、数日前の飲み会での松田さんの発言だったらしい。


『最近のカフェは洒落乙すぎて、男が落ち着ける場所がねぇ』

『もっとこう、秘密基地みてぇなワクワクする場所が欲しい』


 それに青央さんとてんちょーが激しく同意し、なぜか俺の家の敷地内で実行されることになったのだ。いくら田舎で土地が余ってるとはいえ、なぜなのか……。


「材料は俺が建築関係のツレから安く仕入れてきた! 道具も揃ってる! あとはやるだけだ!」

「ボクも手伝うよ! こういう日曜大工って憧れてたんだよね」

「動画の企画としても最高だね。『おじさん達が本気で秘密基地作ってみた』。絶対伸びるよ」


 盛り上がる男たち。こういう時の大人の男は、一瞬で小学生並みの知能に戻ってしまう。

 正直、この炎天下での作業は勘弁してほしいが……「ツリーハウス」という響きに、俺の中の少年の心も少しだけ反応してしまったのは否めない。いや、しょうがないでしょ。心昂るっしょ。


「……わかりましたよ。やりましょう、男のロマン」

「おっしゃ! そう来なくっちゃな!」


 こうして、平均年齢高めの秘密基地建設プロジェクトが幕を開けた。


 ◇


 作業は過酷を極めた。

 まずは基礎となる単管パイプを組み、その上に床板を張っていく。

 木の上での作業は足場が悪く、普段使わない筋肉が悲鳴を上げる。痛すぎる。泣きそうだよ。


「ぐぬぬ……この梁、重すぎだろ……!」

「松田さん、そっち支えててください! ビス打ちます!」

「あ、カメラのバッテリー切れた。ちょっとタンマ」

「ふざけんなてんちょー! こっちは限界なんだよ!」


 汗だくになりながら木材と格闘する俺たち。

 そこへ、強力な助っ人が現れた。


「おーい、精が出るねぇ」


 軽トラで颯爽と現れたのは、お隣の猫村さんだ。

 荷台には冷えたスイカと、見たことのない専門的な工具が積まれている。


「猫村さん! 助かります!」

「面白そうなことをやってるって聞いてね。昔、大工の手伝いもしてたから、知恵くらいは貸せるよ」


 猫村さんの的確なアドバイスにより、作業スピードは格段に上がった。

 床が出来上がり、壁の枠組みが見えてくる。

 形になってくると、疲れよりもワクワクが勝ってくるから不思議だ。


「よし、次は屋根だ! ここをこう斜めにして……」


 松田さんが適当な設計図——という名のチラシの裏に書いた落書きを元に指示を出す。

 しかし、どうも雲行きが怪しい。


「……あれ? これ、組み上がらなくないですか?」

「おかしいな。計算上はいけるはずなんだが」

「松田さんの計算、ドンブリ勘定すぎますよ!」


 あーでもないこーでもないと揉めていると、下から呆れたような声が聞こえてきた。


「……何やってるの、おじさん達」


 見下ろすと、麦わら帽子を被ったサクラコが、腕を組んで立っていた。

 手には冷えた麦茶の入ったジャグを持っている。天使か。


「おうサクラコ! 見てろよ、今すげぇ基地作ってやるからな!」

「……その屋根、そのままだと荷重で崩れるよ?」

「えっ」


 サクラコは溜め息をつくと、落ちていた木の枝で地面にサラサラと図を描き始めた。


「ここの支点が弱いから、筋交いをこう入れないとダメ。あと、床の水平も取れてないから、あっちの枝を利用して吊った方が安定するよ」

「……マジか」

「構造力学の本で読んだもん。……ほら、私が指示出すから、ちゃんとやってよね!」


 まさかの現場監督就任である。

 しかし、天才中学生の指示は的確すぎた。

 彼女の言う通りに補強を入れると、グラついていた骨組みが嘘のようにガッチリと安定したのだ。


「すげぇ……サクラコちゃん、マジで何者?」

「将来はウチの建築会社に来ないか?」

「お断りしまーす! 私はここの農園を世界一にするんだから!」


 サクラコの檄が飛ぶ中、おじさん達は再び汗を流した。

「そこ、右に三ミリずれてる!」「もっと腰入れて!」という可愛くも厳しい罵声を浴びながら。


 ◇


 夕暮れ時。

 ヒグラシの声が響く中、ついにそれは完成した。


 大木の枝の間に設えられた、四畳半ほどの空間。

 廃材を利用したパッチワークのような壁に、開閉式の窓。

 屋根からはロープ梯子が垂れ下がっている。

 歪だし、隙間風も入るだろうが……どこからどう見ても、最高の「秘密基地」だ。


「……できたな」

「あぁ、できた……」


 俺たちは泥だらけの顔を見合わせて、ニカッと笑った。


「よし! こけら落としだ! 全員搭乗!」


 梯子を登り、秘密基地の中に入る。

 大人五人+サクラコが入るとギュウギュウだが、その狭さがかえって心地よい。

 窓からは、夕日に染まる農園と、『Farm Cafe Katze』のログハウスが一望できた。


「……いい景色だねぇ」

「苦労した甲斐があったぜ」


 松田さんがクーラーボックスから取り出したのは、キンキンに冷えた缶ビールとサクラコ用のジュース。


「それじゃあ……俺たちの秘密基地と、最高の夏に!」

「「「かんぱーい!!」」」


 プシュッ、という音が重なり、喉に炭酸が染み渡る。

 美味い。

 高級な店の酒なんか目じゃないくらい、最高に美味い。


「ぷはーっ! これだよこれ! これがやりたかったんだよ!」

「次はここにハンモック吊るそうよ」

「プロジェクター持ち込んで映画鑑賞会もいいね」


 夢は広がるばかりだ。

 横を見ると、サクラコも満足そうにジュースを飲んでいる。


「ふふん、私の計算通りだね! ……でも、ちょっと楽しそう」

「だろ? 大人の本気の遊びってやつさ」


 俺はサクラコの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「孝文さーん! ご飯できたよー! ……って、またそんな高いところ登って!」


 下から、エプロン姿のほなみが呆れたように叫んでいる。

 俺たちは顔を見合わせて、イタズラが見つかった子供のように笑った。


「やべっ、奥さんに見つかった!」

「撤収ー! 晩飯だー!」


 秘密基地から降りていくおじさん達の背中は、夕日に照らされて、どんな時よりも輝いて見えた。

 この夏一番の思い出と、筋肉痛というお土産を持って。

●あとがき

烏骨隊長「浪漫である、ロマンっ!」

クロエ「そのロマン、まったく理解できないわ……」

作者「いいよねぇ、こういうの。私の少年心も燃え滾ってくるねぇ」

クロエ「そういえば、作者もおっさんだったわね……」

作者「まだ20代だよっ⁉︎ おっさんはやめてぇっ!」

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