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高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話  作者: らいお
第一部

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閑話-猫村さんと猫村さん

 それは、ほなみさんが我が家にやってきて二日目の昼下がりのことだった。


「ふぅ……いい天気ですねぇ」


 ほなみさんは縁側で、洗濯物を干し終えて一息ついていた。

 昨日の「虫パニック」や「極寒の洗礼」を乗り越え、少しずつだがこの田舎の空気に馴染んできているようだ。

 俺は庭で、冬野菜の手入れをしていた。


「おーい、喜多くーん!」


 敷地の外から、よく通る声が聞こえてきた。

 軽トラを停めてこちらに手を振っているのは、お隣の猫村さんだ。


「あ、猫村さん! こんにちは!」

「こんにちはー。いやぁ、今日は暖かいねぇ」


 猫村さんはニコニコと笑いながら、敷地に入ってきた。

 その手には、泥のついた立派な長ネギの束が抱えられている。


「おや? そちらのお嬢さんは……もしや?」


 猫村さんの視線が、縁側にいるほなみさんに注がれる。

 ほなみさんは慌ててサンダルを履き、ペコリと頭を下げてこちらへ小走りでやってきた。


「は、初めまして! えっと……喜多さんの友人でお世話になっております、ほなみと申します!」

「おぉ、なんと丁寧な。私は隣に住んでる猫村と言います」


「えっ?」


 ほなみさんが、キョトンとした顔で固まった。

 猫村さんも、不思議そうに首を傾げる。


「どうしたんだい? 私の顔に泥でもついてるかい?」

「あ、いえ! あの……『猫村』さん、ですか?」

「そうだよ。猫に村で、猫村」

「……奇遇です! 私も、猫村なんです!」


「……は?」


 今度は猫村さんが目を丸くする番だった。

 そして俺も、改めてその事実に「あぁ、そういえばそうだった」と思い出す。出会ってから「ほなみさん」としか呼んでなかったからすっかり忘れてたなぁ。


「いやはや、驚いた。まさか猫村が被るなんて。この付近の出身なのかい?」

「違いますよ。私、出身はこの辺りじゃないですし……疎遠ですがおじいちゃんは別にいますし」

「なんということだ……。こんな珍しい苗字が同じなんだ、てっきり私の隠し孫か遠縁の親戚かとばかり思っていたよ!」


 猫村さんが豪快に笑い出した。

 そう、この「猫村」という苗字の一致。

 周囲の人々の中には「ほなみさんの祖父=お隣の猫村さん」という図式を勝手に描いていた人もいたかもしれない。

 だが現実は小説よりも奇なり、というか単なる偶然だったのだ。


「いやぁ、世間は狭いねぇ! まさか赤の他人で同じ苗字が揃うとは!」

「ふふっ、私もビックリしました。でも、なんだか親近感が湧きますね」

「違いない! 同じ猫村同士、今日から君は私の孫みたいなもんだ!」


 猫村さんは上機嫌で、抱えていた長ネギをほなみさんに突き出した。


「ほれ、これは出会いの祝いだ! 持っていきなさい!」

「えっ、い、いいんですか!? こんな立派なネギ……」

「いいのいいの! あ、ちょっと待ってな。これだけじゃ寂しい」


 猫村さんは一度軽トラに戻ると、荷台から次々と段ボール箱を降ろし始めた。


「これは白菜! 今朝採れたてだ!」

「わぁっ! おっきい!」

「こっちは里芋! 煮っ転がしにすると美味いぞ!」

「す、すごいです……!」

「あと、これは干し柿! 私が作ったやつだ!」

「そ、そんなに!?」


 あっという間に、ほなみさんの腕の中は野菜で埋め尽くされ、持ちきれなくなった分が足元に積み上げられていく。

 これぞ田舎の洗礼・その二。『物理的な豊かさ(重量)』のプレゼントだ。


「わわわ……猫村さん、ありがとうございます! でも、こんなに貰っちゃって悪いですよ……」

「何を言うか! 他人行儀な。同じ猫村じゃないか!」


 論理が飛躍している気がするが、田舎では「もらう」ことがコミュニケーションの基本なのだ。


「ほなみさん、ありがたく貰っておきましょう。その代わり、美味しく料理して感想を伝えるのが一番のお返しですから」

「はいっ! ……ふふ、猫村さんの野菜、ずっしり重くて、温かいですね」


 ほなみさんは泥だらけの白菜を抱きしめて、満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔を見て、猫村さんも「いい孫ができたわい」と満足げに髭をさする。


 血の繋がりなんてなくても、苗字がたまたま同じなだけでも。

 ここでは、そんな些細なきっかけで「家族」のように温かい関係が生まれる。


「さて、今日の夕飯はネギたっぷりの鍋にしようか?」

「賛成です! 私、腕によりをかけちゃいますね!」


 赤の他人の「猫村さん」同士の対面は、大量の野菜と共に、賑やかに幕を閉じたのだった。

⚫︎あとがき

烏骨隊長「完全に騙されたである……」

作者「へへっ、騙されてやんのー! 完全にミスリードじゃん!」

烏骨隊長「……もしや、最初から仕組んでいたな?」

作者「その通り。構成の段階で主人公、ヒロインは決めてたけどお隣の猫村さんは後付けだけどね。いつか明かせたら、って思ったけど随分と遅くなってしまった」

サクラコ「わ、わたしは気付いてたもん!」

作者「おっと、ここにもミスリードが一人」

サクラコ「わたしは分かってたもんー!」

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