ドタバタ休業→みんなでお出かけ③
店の外に出ると、すっかり夜の冷気が満ちていた。
11月の夜風は冷たいが、焼肉で火照った体には心地よい。
「うぅ〜、寒いっ! でも星が綺麗!」
「街中だと明るいからあんまり見えないけど、それでも冬の空は澄んでるな」
俺達は一度電車に乗って車屋まで戻り、無事に点検を終えた愛車を引き取ってきた。
そして再び『Katze』へと戻り、店に置かせてもらっていた大量の荷物(ほなみさんのボストンバッグと、今日の買い物の戦利品)を車に積み込み、いよいよ俺の家へと向けて出発した。
……改めて考えてみると、急展開だよなぁ。
車は繁華街を抜け、郊外へと走る。
街灯の数が徐々に減り、対向車のライトもまばらになっていく。この都心から離れていきますよ、って感じ、なんか良いよね。
助手席のほなみさんは、窓の外を流れる景色を珍しそうに眺めていた。
「だんだん、暗くなってきましたね……」
「ここから先は高速乗って、その後は山道だからね。もっと暗くなるよ」
「わぁ……本当だ。街の明かりがあんなに遠くに」
バックミラー越しに見える街の明かりが、まるで別の世界の出来事のように遠ざかっていく。
高速道路を降りて車は、俺が住む地域――あの真っ暗な農道へと入っていった。
「く、暗っ!? 孝文さん、これライトついてますよね!?」
「ハイビームにしてこれだよ。月明かりがない日は、本当に自分の車のライトだけが頼りなんだ」
「ひぇぇ……お化けとか出そう……」
ほなみさんが怖がって身を縮める。
後部座席のサクラコはといえば、「お化けなんていないもーん」と余裕の表情で、買ったばかりの服の入った袋を抱きしめてウトウトしていた。満腹で車の揺れ、そりゃ眠くもなるか。
「大丈夫だよ。お化けは出ないが、イノシシとかタヌキはよく出没するからな」
「それはそれで怖いですっ!」
そんな軽口を叩きながら走ること数十分。
ようやく見慣れた我が家が見えてきた。
真っ暗な闇の中に佇む一軒家。だが、玄関先のセンサーライトが俺達の車に反応してパッと明かりを灯す。
「着いたぞー。ここが俺達の城だ」
「ふぅ……やっと着きましたね。なんだか冒険して帰ってきた気分です」
エンジンを切ると、辺りは静寂に包まれる……はずだったのだが。
「ワンワンッ! ワフッ!」
「コケッ! コケーッ!」
「メェ〜!」
車のドアを開けた瞬間、室内と庭の方から賑やかな声が響いてきた。
どうやら、主の帰還を待ちわびていた連中がいるらしい。
「あははっ、凄い歓迎! みんな起きてたんですね」
「アリスはともかく、烏骨鶏たちは寝てろよなぁ……。車の音で起きちゃったか」
俺は苦笑いしながら、トランクから荷物を降ろす。
サクラコも目をこすりながら車から降りてきた。
「んぅ……ついたー? ……あ、クロエたちが呼んでる!」
サクラコは眠気も吹き飛んだのか、一目散に庭の柵の方へと駆けていく。
俺とほなみさんも、大荷物を抱えてその後を追った。
「ただいまー! いい子にしてたー?」
「メェ〜」
暗闇の中で、クロエの白い目が光る……というと怖いが、実際は柵から顔を出して鼻を鳴らしているだけだ。
ほなみさんは最初少しビクッとしていたが、すぐに表情を緩めた。
「こんばんは、クロエちゃん。会いに来たよ」
「メェッ!」
クロエは俺達と一緒にいるから敵ではないと判断したのか、大人しく頭を撫でさせてくれた。
烏骨鶏軍団も「コケコケ」と騒ぎながら柵越しに集まってきている。一番大きな烏骨鶏に至っては、バサバサと翼を上下させ走り回っている始末だ。元気があって、大変よろしい。
「ふふ、本当に賑やかですね。……ただいま、って言ってもいいですか?」
「あぁ、もちろんだ。今日からここが、ほなみさんの家でもあるからな」
俺がそう言うと、ほなみさんは少し照れくさそうに、でもしっかりと頷いた。
「はいっ! ……ただいま!」
その声は、冷たい夜風に溶けて、温かく響いた。
◇
家に入ると、今度はアリスの熱烈な歓迎を受けた。
ケージの中で尻尾がちぎれんばかりに振られている。
「よしよし、いい子にしてたか? ……お、トイレもちゃんとシートで出来てるな。偉いぞ」
「アリスー! ただいまー!」
サクラコがケージを開けると、アリスは茶色い弾丸となって飛び出し、俺とサクラコ、そしてほなみさんの周りをぐるぐると回り始めた。
「わぁっ、元気! この子がアリスちゃんですね。初めまして、ほなみだよー」
ほなみさんがしゃがみ込むと、アリスは遠慮なくその顔を舐め回す。
犬山先生の時もそうだったが、この犬は美人が好きなのかもしれない。……ちょっとズルいね。
「さて、それじゃあ部屋の案内をするよ。ほなみさんの部屋はこっちだ」
俺はアリスと戯れる二人を促し、一階の和室へと案内した。
使い道に迷って、客間にした六畳間だ。掃除はしてるから綺麗だよ?
「わぁ……! 畳のいい匂い。それに、縁側まであるんですね!」
「古い家だけど、日当たりは良いからな。布団も敷いてあるし、今日はもう疲れただろうから、ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます。……なんだか、おばあちゃん家に来たみたいで落ち着きます」
ほなみさんは荷物を置くと、畳の上にぺたんと座り込んだ。
その表情には、長旅と環境の変化による疲れが見えたが、それ以上に安堵の色が濃かった。
「……あの、孝文さん」
「ん?」
「本当に、ありがとうございます。私、ここに来て良かったって、もう思ってます」
真剣な眼差しで見つめられ、俺は少し顔が熱くなるのを感じた。
「ま、まだ来たばっかりじゃないか。これから虫が出たり、寒かったり、大変なこともあるぞ」
「ふふっ、それも楽しみにしてますね」
そう言って笑うほなみさんの笑顔は、店のカウンター越しに見る「店主の笑顔」ではなく、一人の女性としての素の笑顔に見えた。
「じゃあ、お風呂沸かしておくよ。サクラコ、ほなみさんにタオルとか場所教えてあげてくれ」
「りょーかいっ! ほなみちゃん、こっちこっちー!」
賑やかな夜は、まだ始まったばかりだ。
俺は給湯器のスイッチを入れながら、これから始まる三人と数匹の共同生活に、胸を高鳴らせていた。
⚫︎あとがき
烏骨隊長「久しぶりの出番であるぞぉぉぉぉぉ!」
クロエ「ほんとに、ひっさしぶりね……」
作者「ごめんて。三年も開けちゃってマジでごめんて」
クロエ「……まぁ、忘れずに更新したから良しとするわよ」
作者「ありがてぇ……!」
烏骨隊長「許すわけがなかろう。総員、かかれっ!」
烏骨鶏集団「「「「コケェェェェェェェッ!!」」」」
作者「ちょ、まって、みんなで攻め立て……やめてえぇぇぇ!」
⚫︎作者のひとりごと
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