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高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話  作者: らいお


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不思議な女性との出会い編 第二話

 初対面の女性に、相談を投げかけられた。


「私、ほなみって言います!猫村(ねこむら)ほなみです!」

「あっ、俺は喜多孝文(きたたかふみ)って言います。」


 二人して座りながらお辞儀をする。なんだこれは。


「それで猫村さ――」

「ほなみです!」

「…ほなみさん、相談はいいんですけど、店開けたままでいいんですか?なんか長くなりそうですし他に客来たら…」

「大丈夫です!ここ1週間で来たお客さんは孝文さんだけですから!」


 おいおいそれでいいのか…あと、半ば強制的に下の名前で呼ぶことになったし。


「あっ!今相談はいいんですけど、って言いましたよね!じゃあ話聞いてくれるんですね!」

「…話を聞いてから判断しますよ。俺じゃどうにもならなければそれまでですよ。」

「やった、話聞いてくれるだけでも嬉しいですよ!」


 ほなみさんと話してるとなんか調子狂うな…いや、良い子なんだろうけど…


「では…先ほども言った通り、この喫茶店は―――」






 ほなみさんがゆっくりと、だが確実に話した事を要約すると、この店は元々お兄さんの店で、ほなみさんは接客を担当していた。だが、つい先日お兄さんが急に胸を押さえながら倒れ、そのまま目を覚まさなかった。急性大動脈解離だったようだ。ほなみさんは、お兄さんが大事にしていたこの喫茶店を潰すわけにはいかないと奮起してはみたものの、今まで私生活でも料理はお兄さん任せで、店では接客しかしたことのなかったほなみさんは大苦戦することとなった。このままではお兄さんの店が潰れてしまうどうしよう!といった具合だった。


「…なるほど、料理の腕を見るからにそういった事だろうとは思ってました。」

「はぅっ!…孝文さんは正直ですね…」


 ほなみさんは見るからにショックそうに顔を沈めている。この子は喜怒哀楽がはっきりしているらしいな。


「とはいえ、この事態をどうにかしなければですね。…料理の腕は練習して上手くなりましょうよ。流石に注文入ってから30分も音沙汰無し、しまいにはキッチンを見てみると頭を抱えている従業員がいる…ってのは流石に厳しいでしょう。」

「ごもっともです…」


 ほなみさんが落ち込んでしまった。どうにかせねば。


「落ち込まないでください。料理は練習すれば次第に上手になっていきますよ。なので、それまでの間は食事系のメニューは中止すればいいんです。飲み物オンリーの喫茶店は沢山あるので大丈夫だと思いますよ。」

「そ、そうですねっ!そうしましょうっ!」


 ほなみさんはパァっと笑顔になる。何だろうこの人、表情見てるだけで楽しいな。


「ともあれ、ほなみさんの今の料理の実力は見てみたいですね。別に俺も料理は上手くはないですけど、不味くて食えない程ではないので。一度見せてもらってもいいですか?」


 正直、ここまで深く入り込んでしまっていいものか、とも思ったが、ここまで来たら乗り込んだ船だ。泥船じゃない限りは沈まない。


「はいっ!目にもの見せてやります!」


 それはちょっと違うだろう。

 俺とほなみさんはキッチンへと向かう。


「では、さっきのサンドイッチでも作ってもらいましょうか。」

「はいっ!」


 ほなみさんは心地良いほどに良い返事をし、準備に取り掛かる。

 テキパキと、必要な食材を用意する。ここまで見る限りでは料理が苦手とは思えない。むしろ普段料理をしているんじゃないかと思う程手際が良かった。


「で、ではいきますっ!」

「あんまり気張らないでくださいね。」


 なぜだろう。料理を始めた途端動きがギクシャクしだした。

 フライパンに油をひくだけでもギクシャクしすぎてドバドバと入れてしまっている。揚げるつもりか。

 焦りながらキッチンペーパーを取り出して拭く。


「焦らず、ゆっくりやりましょう。時間がかかっても大丈夫ですよ。」

「は、はいぃっ!」




 こんな調子で、ほなみさんはなんとかサンドイッチを作りあげた。その過程で油に火が引火して火事になりかけたり黒こげのスクランブルエッグが出来たり、フライパンをひっくり返したりしていたが。

 出来上がったサンドイッチは、ホットプレートに油をひきすぎてカリカリになっていたり、所々コゲていた。だが、食べられなくはないだろう。


「す、すみません…失敗してしまいました…」


 ほなみさんはガックリと項垂れる。この店のオススメと言われているサンドイッチがどんな見た目なのかは知らないが、確かにこれは失敗なんだろう。


 それを俺は食べだした。


「た、孝文さんっ!食べないでくださいそれは失敗したものですよっ!?」

「…まぁ、確かにこれは失敗なんでしょうね。パンがカリッカリに揚げられていますし、具材もぐちゃぐちゃで見てくれもよくは無い。…でも、美味しいですよ。」

「ッ!!」


 実際、本当に美味しかった。これはこれでイケる。油が多かったせいか揚げられているがその食感が程よいアクセントになっている。具材もコゲが少々苦みになっているが、それを抜きにすれば美味しい。

 俺はそのサンドイッチを、ペロリとたいらげた。


「ありがとう…ございます…」


 ほなみさんはポロポロと涙を流す。


「す、すみません泣かせる気なんてなくて…」

「いえ、違うんです…美味しいなんて言ってもらえて嬉しくて…」


 俺は、泣き止むまで静かに見守った。






「すみません、ありがとうございます…」


 どうやら泣き止んだようだ。ほなみさんは今、晴れやかな、とても良い笑顔をしている。


「でも、これじゃだめですよね…私、もっと練習して、もっともっと美味しい、お兄ちゃんが作ったサンドイッチを作れるようになりますっ!」

「その意気ですよ、頑張っていきましょう。」


 微笑ましい姿だ。だがいかんな。ほなみさんは小柄なので、どうも子供のように相手をしてしまう。


「あ、あの…」

「はい?」


 ほなみさんは何か言いにくそうに言葉を詰まらせている。まぁ大体言いたいことは分かる。


「これから手伝えることがあれば言ってくださいね。出来そうな事であればやりますから。」

「は、はいぃっ!ありがとうございますっ!じゃ、じゃあ…たまにでいいので、料理の練習に付き合ってもらってもいいですか…?」

「そんな事ですか。いいですよ、頑張っていきましょうね。」

「はいっ!」


 それから俺は、ほなみさんと連絡先を交換し時折料理の腕を確認するという約束をして、喫茶店を後にした。

 最寄りの駅に着くころには辺りは薄暗くなっていた。

 今日は色々あった…街に出てトラ猫を追いかけていたら喫茶店に着き、そこで不思議な女性と出会うとは…だが、なかなかに楽しい一日だった。

 この一日が休日らしいか、と言われると少々疑問だが、面白い人と出会えたので良い休日だったという事にしよう。

 にしてもあそこの店のコーヒーは美味しかったな。ほなみさんには店を潰さないように頑張ってほしい限りだ。

 俺はそう思いながら、バイクに乗り家に帰っていくのだった。


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