怪82
この身は罪にまみれている。
アメリアはそう思った。
もしも本当に父である公爵が『紅きチャンジャール公』を作り上げたのであれば、真実が明らかになった時、国民はアメリアを許すまい。
子供を失った親達に、公爵ともども断罪されるだろう。
そう考えたらふっと体から力が抜けて、アメリアは床にへたり込んだ。
「姉上!」
ユリアンが助け起こそうとするが、アメリアには立ち上がる気力がなかった。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
力なくうなだれるアメリアを見て、メルティがキャンキャン吠える。
「なんで婚約破棄の時より落ち込んでるのよ!」
「……ペレディル男爵令嬢」
アメリアは力なく呟いた。
「申し訳ありません。貴女を狙ったのは、やはり父の命令だったのでしょう……」
公爵が『紅きチャンジャール公』に命じて、クラウスの心を奪ったメルティを始末しようとしたのだ。おそらくは、薄々反乱軍の存在に気づいていて、見せしめのために目立つ場所にメルティの死体を置こうとしたのだろう。
「はあ? アンタに謝られる筋合いはないわよ。 私が狙われたのって、私がクラウスに近づいたからか、もしくはお父様への見せしめでしょ? ていうか、お父様からは何も聞いてないわよ!」
メルティは鏡に向かって憤慨した。
「お父様ってば、私を駒にしたわね。王家と公爵家の仲に亀裂を入れられれば儲けもん、くらいに思っていたに違いないわ。人畜無害な顔して意外と腹黒い男なのよ」
そうでなければ、王太子に近づく娘を心配して止めるはずだ。と、メルティは実の父を冷血漢呼ばわりした。
「腹立つわー。一発殴りたい」
「メルティ……」
クラウスが不安げな表情で口を開いた。
「その……君が俺に近づいてきたのは、まさか男爵の命令だったのか? 俺とアメリアを、王家と公爵家を引き裂くために……」
「はあ? 何言ってんの、違うわよ!」
メルティは力強く否定した。
「馬鹿なこと言わないでよね!私なんかがそんな重要な任務を任せられるわけないでしょ!」
何故だろう。説得力があった。
「お父様の指示だったのなら、婚約破棄にだってもっとマシな理由が付けられたわよ。「いじめられた」なんて子供みたいなこと言わずに済んだわよ!」
「た、確かに……」
思わず納得するクラウスを余所に、メルティはアメリアに言い放った。
「アンタのお父様の命令で私の命が狙われたのかもしれないけど、私もアンタに濡れ衣を着せて婚約破棄させたからおあいこね! だから、いつまでも落ち込んでんじゃないわよ!」
アメリアはぱちぱちと目を瞬いた。




