怪81
「嘘だろ……」
鏡の中で、『口裂け女』に問われてショーンが語った「帝国との取引」の話に、クラウスは愕然とした。
それはアメリアも同じだった。自らの父がそんな行為に手を染めていたなど、信じたくはない。
だが、ショーンを始めとする面々は『長年かけて調べた』と言っている。さらに、市民連合と名乗る一団は、子供を誘拐された親達だと言う。彼らの目的は『紅きチャンジャール公』を壊滅させること。そして、帝国へ連れさらわれた子供達を取り戻すこと。
『そのためなら、なんだってやるさ!』
アメリアは手を祈りの形に組んで鏡面を見守った。
「へっ。『花子』も物好きだが、『口裂け女』も同じだぜ。人間と協力して戦争を終わらせようだなんてよ」
ソファに腰掛けた犬らしきものがそう宣った。
「喋った……?」
メルティ以外の三人は驚いた。
「そうなのクラウス! こいつ、喋るし犬だしおっさんなの! どうにかして!」
メルティはクラウスに泣きつくが、そうは言われてもクラウスにはその中のどれ一つとして解決出来ない。喋るのも犬なのもおっさんなのもどうしようもない。
「君達も、この女の仲間なのか? 本気で帝国を滅ぼそうとしているのか?」
クラウスは『人面犬』を回避して『メリーさん』に尋ねた。チキン野郎である。
「まあ、戦争みたいな現実的な恐怖に支配された世界では、あたし達は生きづらいのは確かね」
『メリーさん』は口を尖らせた。
「平和で恵まれた世界の子供達が放課後に求めたちょっとした恐怖が、あたし達の源だもの。どうやら『口裂け女』はこの世界を平和にしてから、思う存分に子供達を怖がらせたいらしいわ」
肩をすくめる『メリーさん』の横で、『人面犬』が言った。
「面倒くせぇのは御免だぜ。おい、『メリー』。とっととこのガキどももあいつらのところに送っちまえよ」
「いやよ。移動させるの疲れるんだから、あたしはもうちょっと休む」
『メリーさん』はソファに沈み込んで目を閉じてしまった。
鏡の中を見守っていたアメリアの背後に、ユリアンが立った。
「姉上……」
そっと腕に触れる。アメリアは振り向かなかった。
鏡の中では、子供達に危害を加える人間は全部殺してしまえと『口裂け女』が笑っていた。




