怪78
「久しぶりね。腑抜けた『トイレの花子さん』」
「久しぶりね。『口裂け女』」
互いに睨み合い、昭和の子供達に恐れられた二大都市伝説が対峙する。
「『口裂け女』……あんた、何を企んでいるの?」
花子は床に降りたって尋ねた。
「何を? そんなの決まっているじゃない」
突如、『口裂け女』の赤い唇が耳元まで裂けた。
背後の男達から声が上がる。誰かが化け物、と叫んだ。
「ふふふ……この世界の連中は、ちゃんと私達を恐れてくれるわ」
『口裂け女』は満足げに笑った。
「アンタと違って、私はこの世界で恐怖をまき散らしたわ。だから、今の私はアンタより遙かに強いわよ。人間と仲良くなって、恐怖の糧を得ずにのんびり暮らしていたアンタは激しく弱体化しているじゃない。このままでは、本当に消えてしまうわよ」
「……」
「アンタも私達と一緒に恐怖をまき散らしましょうよ」
「……無闇に人を襲えと?」
言われずとも、自分が弱体化していることを花子は知っていた。
それでいいと、思っていた。
「無闇にじゃないわ。私が殺したのは、子供達を隣の国に連れ去っている連中だけよ」
それを耳にしたショーンが一歩前に出た。
「やはり、『紅きチャンジャール公』の連中を惨殺していたのはお前なのか? どうやって見つけたんだ、連中の潜む場所を」
勢い込んで尋ねるショーンに、『口裂け女』は冷たい目を向けた。
「ねぇ、『花子さん』。私達が生まれたのは昭和の後期。戦争が終わり、豊かになり、子供達が空襲や爆弾を恐れずに外で声を上げて遊べるようになった時代よ」
『口裂け女』は目を細めて語った。
「平和に遊べる環境でなくては、子供達は私達を恐れてくれないわ。現実の脅威には対抗できないもの。だから、私は戦争が嫌い。大人が嫌い。だから、この世界から戦争をなくしてやるのよ」
「なに……?」
「だから、私達が帝国を滅ぼしてやろうっていうのよ」
花子は目を見開いた。
「十数年前、北の帝国が他国への侵略を開始して、以来、西の王国を始めとする小国家軍が戦いを繰り広げている。けれど、このテイステッド王国だけは、北の帝国からの侵略を免れている。どうしてかしら?」
『口裂け女』の言葉に、ショーンはペレディル男爵と目を見合わせた。何者なのかわからないが、この女はすべてを知っている。そう感じた。
テイステッド王国は、北の帝国と西の王国の間、やや帝国よりに位置する小さな国だ。元々、食料輸入や防衛の面で北の帝国への依存度が高かった。
そのためだろう。十数年前、西の王国への侵略を開始した帝国は、秘密裏にテイステッド王国へ取引を持ちかけた。
テイステッド王国への侵略をしない代わりに、帝国へ忠誠を示せ、と。
王家と四つの公爵家は、それに応じた。帝国と戦って勝てるわけがなかったからだ。
この国が生き残るために選択した、その罪を明らかにするために、ショーン達は立ち上がったのだ。




