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怪77





 西の廃教会は十数年前に経営難で潰れた小さな教会だった。ここに暮らしていた修道女達は別の教会に移り、今では建物が残るばかり。家のない者が寝泊まりしているようだから、近寄ってはいけないとハンナは両親から言い聞かされていた。

 そんな危険な場所に、公爵夫人であるセレナがずかずかと踏み行っていくので、ハンナはおっかなびっくり後を追いかけた。

 セレナは迷いのない足取りで礼拝堂の祭壇の神像に手をかけると、木造の首をもぎ取った。

 ハンナは呆気にとられたが、どうやら力を入れて捻れば首が取れるように細工されていたらしい。

 セレナは像の中から、分厚いを取り出した。

 そして、それをハンナに押しつけてこう言った。


「これを、あなたのお父様にお渡しして。そして、信頼のおける貴族に伝えてほしい、とお願いしてちょうだい」


 ハンナは戸惑いつつも封筒を受け取った。


「あの、これは……」

「それは、この国の……私達の罪の証拠よ」


 セレナはふっと笑った。


「では、お願いするわね」

「あ、あの、どちらへ?」


 教会を出て夜道を歩き出そうとするセレナを呼び止めたが、セレナは立ち止まらずに答えるだけだった。


「コートリー伯爵家へ行かねばならないの」

「でしたら、馬車で」

「いいえ。あなたは来てはいけない。早くお家に帰ってその手紙をお父上に」


 そうは言われても、人通りのない夜道に公爵夫人を放置していっていいものかと、ハンナは迷った。


 すると、そこへ遠くから足音が近寄ってきて、あっという間にハンナとセレナの目の前に一人の老婆が出現した。

 走りの体勢のまま停止した老婆は、こちらに顔を向けずに言った。


「乗りな」

「え?」

「急ぐんだろう」


 老婆はセレナに背中に乗れと促してくる。


「あ、あなたは、『百キロバ……老婦人』では?」


 ハンナは馬車を追い越していった姿を思い出して目を瞬いた。


「お知り合い?」

「いえ……」

「ごたごた五月蠅いよ、小娘どもが!」


 老婆に一喝され、ハンナとセレナはびくんっと震えた。


「子供達の命がかかってんだろうが! ぐずぐずしてちゃ女が廃るよ!」


 言われていることはよくわからないが、とにかく迫力に押されてセレナは怖々と老婆の背に乗った。


「え……ひょわっ」


 セレナを背負うなり、老婆は再び走り出した。目にも留まらぬ速さで駆けていってしまった老婆を見送り、ハンナはセレナの無事を祈りつつ自らも馬車に乗り込んで家に向かって走り出した。






「花子さんは、今どこにいるのです?」


 硬い声でアメリアは尋ねた。

 花子が消えたがっていると『メリーさん』は言う。だが、アメリアが目にしてきた花子は、いつだって生き生きとしていた。消えたがっていただなどと、信じられない。


「今頃、『口裂け女』の元へ駆けつけているはずよ。トップ会談ね。邪魔は出来ないわ」


『メリーさん』がぱちん、と指を鳴らすと、メルティの部屋のドレッサーの鏡が淡く輝きだした。


「様子だけなら見せてあげる」


 その言葉通り、鏡面に花子の姿が浮かび上がった。


「花子さん!」


 アメリアはドレッサーに駆け寄って、鏡を覗き込んだ。

 花子はどこか、暗い建物の中にいるようだ。花子の前に背の高い黒衣の女が大きな鎌を手にして立っている。

 花子の背後には、十数人の男達が佇んでいた。


「え? お父様?」

「ショーンじゃないか」


 同じように鏡を覗き込んだメルティとクラウスが目を丸くした。


「こいつら、いったい何を……」


『だから、私達が帝国を滅ぼしてやろうっていうのよ』


 鏡の中から、女の声がした。




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