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怪76





「う……」

「ユリアン?」


 ユリアンが呻いて目を開けた。


「……姉上?」


 起き上がったユリアンが辺りを見回して怪訝な表情になる。


「いったい、何が……?」


 そう尋ねかけた時、何もない空間から突然、クラウスが出現した。


「え?」


 何かに手を引かれたような格好で闇の中から現れたクラウスは、アメリアとユリアンの顔を交互に見て目を丸くした。


「役者が揃ったわね。それじゃ、会議を始めましょうか」


『メリーさん』がぱちん、と指を鳴らした。

 次の瞬間、三人はどこかの部屋に移動していた。


「ふぎゃあっ!」


 珍妙な悲鳴が響く。


「え? メルティ?」


 クラウスの下敷きになったメルティが呻いている。


「ここは……」

「その娘の部屋よ」


『メリーさん』が潰されたメルティを指さしながらソファに腰掛けた。『メリーさん』の隣には犬ーー人生を斜に構えた親父のような顔をしているがたぶん犬らしきものーーが座っていた。


「ここにいる四人はどうやらとってもおもしろーー複雑な関係らしいから、溜まりに溜まった本音を洗いざらいぶちまけてスッキリしてもらいたくて」


 愉しげに笑う『メリーさん』に、クラウスはメルティを助け起こしながら厳しい目を向けた。


「何者だ? 何を企んでいる?」

「この国に巣くった悪の根を絶やしてあげようとしているのよ。感謝してほしいものだわ」


 飄々と言ってのける『メリーさん』に、クラウスがこめかみをひきつらせた。


「貴様……」

「殿下。お待ちください」


『メリーさん』に食ってかかろうとするクラウスを押しとどめて、アメリアは『メリーさん』の前に立った。


「……恐れられなくなった時、あなた方は消えるとおっしゃいましたね。人と仲良くなるのは、自殺行為である、と」

「ええ。そうよ」


 アメリアはごくりと息を飲んだ。


「花子さんが、消えるとおっしゃりたいのですか? そして、それはわたくしのせいである、と」

「貴女のせいだなんて言わないわ。消えたがっている『花子さん』が貴女を利用しているだけだもの」

「利用などっ……、花子さんは、ただ日本に帰りたいだけですわ!」


 どうしても日本に帰りたいと嘆いていた花子を思い出し、アメリアは拳を握りしめた。


「日本に帰るために頑張っていただけなのです。ですから、花子さんと話し合ってくださいませんか。きっと、分かり合うことが……」

「馬っ鹿ねぇ」


『メリーさん』が心底呆れたように嘲った。ユリアンがむっとして一歩前に踏み出すが、アメリアはそれを留める。


「確かに、日本に帰りたいというのも本音でしょうね。でも、それ以上に、『トイレの花子さん』は、もう消えてしまいたいのよ」


 ふっと目をすがめて、『メリーさん』が言った。


「どういう、ことです?」

「もう、日本の子供達は、あたし達とは遊んでくれないのよ。勉強、部活、マンガ、ゲーム、スマホ……夢中になれる刺激的なものが無数にあるのだもの。子供達の心に、あたし達はもう入り込めないのよ」


 今度は少し寂しげに、『メリーさん』は微笑んだ。




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