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怪75





「公爵夫人、とりあえず家の中へ……」


 取り残されたハンナは、地面に膝をついたままのセレナを助け起こした。

 セレナは何故か甲冑を着込んでいたので、起こしにくくてしょうがなかった。


「……そう……そうね。神の罰が下ったのだわ……」


 セレナは力なく呟いた。


「え?」

「子供の行方が知れないという……この身の切られるような想いを、これまで数え切れない親達に味わわせてきたのだから」


 力を失っていたセレナが、背筋をまっすぐにしてすっくと立った。


「行くべきところがあるわ。貴女の馬車に乗せていただける?」

「は、はい」


 セレナに頼まれ、ハンナは一連の出来事に腰を抜かしていた御者を助け起こした。


「奥様!」


 騒がしいのと公爵夫妻が戻ってこないのとで様子を見に来た使用人達がばらばらと駆けてくるのが見えた。


「急いで」


 セレナは何故か使用人達から逃げるようにハンナを急かした。


「西の通りの廃教会へ!」


 公爵夫人と子爵令嬢を乗せた馬車が夜道を走り出した。





 黒衣の女が彼らを「反乱軍」と呼んだことに人々は動揺した。


 どこから漏れていた? この女は何者だ? どこまで知っているのだ?


 溢れ出る疑問に、ショーンは大鎌を携えた怪しい女に抜き身の剣を突きつけた。


「……何者だ?」


 声がかすれる。


「貴方達の味方よ」


 女は婉然と微笑む。


「私はね、子供に危害を加える人間が嫌いなの。だから、子供をさらって隣の国に連れて行こうとしていた連中、全員殺しちゃったわ」

「!?」


 ショーンを始めとする皆が息を飲んだ。


『紅きチャンジャール公』がさらった子供を運ぶ際の拠点が潰されたという報告は彼らも聞いていた。

 だが、目の前の女がそれをやったなどと、信じられる訳がない。


「この女を捕縛しろ! 詳しく話を聞かねばならん!」


 ショーンが命じると、数人の男が素早く前に歩み出た。だが、女が大鎌をぶんと振るって一同に刃を向ける。刃に阻まれて近づくことが出来ず、男達は息を飲んだ。


「野蛮な真似はよしてちょうだい。ただでさえ、大人は嫌いよ」


 笑みを消した女が一同を睥睨する。


「手を組むか一応は声をかけてやっただけ。思い上がらないで。私はここにいる全員、あっという間に殺せるのよ」


 それが大袈裟には聞こえなかった。

 女の得体の知れない迫力に一同が飲まれかけた。その時、


「そこまでよ」


 頭上から少女の声が降ってきた。


 幼い少女が、天井近くの空間に浮かび、憮然とした表情で黒衣の女を見下ろしていた。


「あら。久しぶりね。腑抜けた『トイレの花子さん』」

「ええ。久しぶりね。『口裂け女』」


 女と少女は互いに睨み合った。




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