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怪73




「い、いやあっ! また出たぁ!」

「うるせぇな、騒ぐんじゃねぇよ」

「乙女の部屋におっさんの顔した犬が侵入してきて喋るのよ!? 私には騒ぐ権利があるはずよ!」


 メルティがぎゃあぎゃあ叫ぶが、何故か使用人は誰も駆けつけてこない。


「ここで会議するからな。部外者が入ってこないように結界を張らせてもらったぜ」


 おっさんの顔をした犬は我が物顔でソファに飛び乗ってクッションに腰を下ろした。


「いや! いや! おっさんの犬が私の部屋に! 犬のおっさんが私の部屋に! 誰かーっ!!」


 メルティは必死に助けを呼ぶが、やはり誰も来ない。部屋から逃げ出そうとしても、見えない壁にぶつかって出ていけない。


「おっさんの犬でも犬のおっさんでもねぇ。俺は『人面犬』だ」

「じ……?」

「一時期は『人面魚』なんて奴もいたがな。あんなもんは俺から言わせりゃパチモンよ」


 何が起きているのかわからないが、メルティはどうやら逃げられないようだと思い知り、震えながら『人面犬』に向かい合った。


「な、何が目的なの……?」


『人面犬』は人生に嫌気の差したおっさんのような顔で言った。


「お前らの腹ん中のもん、ぶちまけてスッキリしちまえってこった」


 ふいーっと気怠く息を吐かれて、メルティはなんだか馬鹿にされているような気になった。




 クラウスは王宮の一室でじっと考え込んでいた。


(あれは何だったんだ……)


『ドッペルゲンガー』というものだと花子は言っていたが、白中の茶会であんな不吉な現象が起きるだなんて。

 あの後すぐにメルティが無事か男爵家に確認したが、メルティは無事に家に帰っているようだった。

 ひとまずはほっとしたが、得体の知れない存在が国を跋扈していると知っては黙っていられない。


「やはり、父上に報告を……え?」


 ぶつぶつと悩んでいたクラウスは、部屋の一角が淡く輝いているのに気づいてそちらへ目をやった。

 部屋の隅、姿見の鏡面が紫色に輝いていた。


「な、なんだ? いったい……」


 姿見の前に立ち、紫色の鏡面を目にしたクラウスは茫然とした。


「む……紫……鏡……?」


 思わずそう呟いた瞬間、鏡面から飛び出てきた腕に捕まえられ、クラウスは鏡の中に引きずり込まれた。




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