怪71
アメリアはふっと目を開けた。
気を失っていたらしい。
「う……」
呻いて体を起こすと、アメリアの手を誰かが握っているのに気づいた。
横を見ると、地面に倒れて赤ん坊のように丸まって眠っているユリアンがいた。彼がアメリアの手を握りしめている。
「ここは……」
アメリアは辺りを見回して息を飲んだ。覚えのある場所だったからだ。
「『紫鏡』様の、鏡の中……?」
暗く何もない空間は鏡の中に引き入れられた際に見た光景だ。
アメリアはとりあえずユリアンを起こすことにした。
「ユリアン、ユリアン。起きて」
揺さぶってみても、ユリアンは目を開けない。呼吸は穏やかなので眠っているだけのようだが、いくら起こしても目覚めなかった。
「ユリアン……」
「安心して。『コックリさん』に取りつかれてちょっと消耗しているだけよ。すぐに目覚めるわ」
闇の中から姿を現したのは、金髪に青い瞳の少女だった。
「あ、あなたは……」
「私は『メリーさん』。今、あなたの目の前にいるの」
少女はにっこりと笑った。
「ごめんなさいね。あなたを『トイレの花子さん』から引き離すために、彼を利用させてもらったわ。彼を苦悩させて弱ったところを操ってしまったけれど、少し眠れば回復するから許してちょうだい」
アメリアはぐっすり眠っているユリアンをみつめた。確かに様子が変だった。あれは操られていたのか。
「どうして、わたくしをここに連れてきたのです?」
アメリアはきっ、と『メリーさん』を睨んだ。
「言ったでしょう? 花子さんから引き離すためよ」
「何故です? 花子さんはわたくしのお友達ですわ」
『メリーさん』がすうっと目を細めた。
「だからよ」
「え?」
『メリーさん』は一つ溜め息を吐くと、アメリアに背を向けて言った。
「私達は、人間の噂話から生まれた存在。人間の恐怖心が私達を形作っているの」
人が彼らの話を語る分だけ、人が彼らの存在を恐れた分だけ、都市伝説の主は実体化し強くなっていくのだ。
娯楽と刺激が多くなりすぎた日本では、もう彼らは子供達の恐怖の対象ではなくなってしまった。これ以上日本にいたら、いつか人間達から忘れられて消えてしまうと思った。
だから、異世界で一から恐怖を振りまいて、人間達から恐れられる存在になろうと思ってここへ来たのだ。
「人から恐れられなくなった時、私達は消える。人間と仲良くなるなど、自殺行為よ」
『メリーさん』の言葉に、アメリアは目を見開いた。




