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怪69





 公爵邸の門の前に馬車が停まる。


「ありがとうございます。ハンナ様」

「いえ、そのような」


 馬車から降りたアメリアが送ってもらった礼を述べる。馬車の中から「また明日」と手を振っていたハンナは、門に向かって一目散に走ってくる人影にはっと気づいて叫んだ。


「アメリア様! 危ないっ!!」


 ハンナが叫ぶのとほぼ同時に、地面を蹴ったユリアンが門の上に飛び乗った。

 ぐるるる、と、獣が唸るような低い声が響く。


「……ユリアン?」


 アメリアは様子のおかしい弟に戸惑った。


「ユリアン!」


 がっちゃんがっちゃんと音を立てながら、セレナが走ってくる。


「お義母様?」


 アメリアは格好がおかしい義母に戸惑った。


 ユリアンが飛び上がった。アメリアの目の前に着地し、彼女の体を力一杯抱き締めた。


「ユリアン? ……痛っ……」


 力任せに締め付けられ、アメリアは苦痛に顔を歪めた。それでも、ユリアンの力は緩まない。


「ちょっと、アンタ……」


 引き離そうとした花子は、ユリアンの体から発される異様な気配に気づいて目を見開いた。


(これは……狐狗狸さんの気配……狐狗狸さんに取りつかれている!)


 次の瞬間、ユリアンとアメリアの体が、黒い靄に包まれた。


「アメリア様っ!?」


 ハンナが馬車から転げ出る。


「ハンナ! その靄に近づいちゃ駄目よ!」


 花子はハンナに駆け寄って押さえた。


「花子さんっ!」

「アメリアっ!」


 アメリアが助けを求めて手を伸ばし、花子はその手を掴もうとした。

 だが、触れる直前に、アメリアの体は完全に黒い靄に飲まれ、花子とハンナ、そしてセレナの目の前で、ユリアンと共にかき消えた。


「アメリア……」


 花子が虚空を見つめたまま呻く。

 すると、くすくす、と意地悪げな笑い声が耳に届いた。


「っ!?」


 ばっと振り向くと、夜の空に少女が一人、浮かんでいた。

 金色の髪に青い瞳の美しい少女が、宙に浮かび、右手に『赤いチャンチャンコ』を、左手に『紫鏡』を持っている。


「随分、耄碌したんじゃない? 『トイレの花子さん』」

「『メリーさん』……っ」


 花子はぎりっと歯噛みして宙に浮かぶ少女を睨みつけた。


「あたし達は人間に恐怖されてこそ力を得るというのに、人間と仲良くしすぎよ?」

「アメリアを、返しなさいっ!」


 花子に怒鳴られ、『メリーさん』はふっとつまらなそうに鼻で笑った。


「返せですって? 親の因果が子に報い、よ。ねえ? 公爵」


 王宮から帰ってきた公爵家の馬車が少し離れたところに停まっており、そこから降りた公爵が虚空をみつめて唖然としていた。


「アメリア……?」


 公爵は見た。黒い靄が子供達を飲み込み、子供達の姿が跡形もなく消えたところを。


「アメリア……アメリアっ!!」


 ようやく事態が飲み込めたのか、血相を変えて走ってきた公爵を嘲笑い、『メリーさん』は姿を消した。


「今の『トイレの花子さん』では、私にも勝てないわよ」


 そう言い残して。




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