怪65
アメリアはハンナと共に玄関に向かっていた。このままハンナの家の馬車で『百キロババア』が出たという通りに案内してもらうつもりだ。
花子も姿を消したままついてきている。そこへ、後ろからクラウスが追いかけてきてアメリアを呼び止めた。
「待つんだ、アメリア」
「殿下。何か?」
立ち止まって振り向くと、クラウスの後ろにはショーンも立っている。
珍しい組み合わせに少し首を傾げると、クラウスからお茶に誘われた。ハンナと花子も招待したいという。
ハンナは王太子からのまさかの招待にだらだらと冷や汗を流している。
アメリアは少し困った。アメリア一人であれば即座にお断りするが、ハンナの立場を思うと勝手に断って良いものか。王太子に茶に誘われるとは、貴族令嬢にとっては名誉なことだ。オリアーノ家にとっては受けた方がいいに違いない。
(気は進まないけれど……)
アメリアは小さく溜め息を吐いて、クラウスの申し出を了承した。
行き先を王宮に変更して、がたがた震えるハンナと姿を現した花子を連れて、アメリアは久々に王宮のガーデンに足を踏み入れた。
「いらっしゃ~い、アメリアさん!」
メルティがぶんぶん手を振る。マナーも何もあったものではない。
「ユリアン君が来れなくて残念! だけど、皆で仲良く楽しみましょう!」
クラウスの隣でニコニコしているメルティはいったいどんな神経をしているのか。アメリアを招待してなんら悪びれるところがない。
「ショーンもなんか久しぶり! 最近忙しそうだったから嬉しいわ!」
「……ああ」
歓迎されて席に着いたところで、アメリアは別にクラウスやメルティ達に話すことはない。当然のことながら花子にも話す義務はない。ハンナががちがちと固くなっておりショーンは「自分のことはいないと思ってくれ」とでも言いたげな態度だ。
必然、しゃべるのはもっぱらメルティとクラウスの二人になる。
しばし、ちゃらちゃらとした二人の会話を聞き流していたのだが、不意にクラウスがアメリアに顔を向けてこう尋ねた。
「そういえば、ユリアンは体調でも悪いのか?」
「はい?」
「今日、茶に誘って断られたが、ずいぶん青い顔をしていたぞ」
アメリアは今朝のユリアンの様子を思い浮かべた。確かに顔が青く、口数も少なかったように思う。てっきり寝不足だと思ってあまり気にしていなかったが、放課後まで青い顔をしていたのならどこか具合が悪かったのかもしれない。
「家に帰ったら様子をみてみますわ。お気遣いありがとうございます」
「うむ」
「ユリアン君といえばさぁ」
メルティがカップを傾けながら、なんていうことのないように爆弾発言をした。
「アメリアさんに「愛してる」ってちゃんと言った?」
アメリアはすんでのところでカップを取り落としそうになるのを堪えた。




