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怪63




「メルティ。頭はもう大丈夫か?」

「大丈夫よ。所詮クラウスの力だもの。たいしたことないわ」

「そうか。なら、良かった」


 男達に殺されかけた精神的ショックからも立ち直り、登校してきたメルティは心配するクラウスににこにこ答えて安心させた。


「それに、クラウスがあいつらをやっつけてくれたんでしょ。素敵! かっこいいわクラウス!」

「いやなに、それほどでも」


 メルティに持ち上げられて、クラウスは満更でもない表情になる。


「でも、アメリアさん達は夜の学園で何をしていたの?」

「ああ。俺が悪しき呪いを解く瞬間を見せつけてやろうと思って連れて行ったのさ。アメリアの奴、俺が悪漢二人を一瞬で倒したのを見て目を丸くしていたな」

「すご~いっ」


 きゃっきゃっといちゃつく王太子と男爵令嬢に、「この二人、相性はいいんだよな……」と関わらないように遠巻きにしているクラスメイト達は思った。


「だが、メルティは怖い思いをしただろう。メルティが元気になるためなら俺はなんでもしてやる。何かしてほしいことはないか?」

「え~、それじゃあねぇ。久しぶりにユリアン君とショーンも一緒にお茶会がしたいな! そうだ! アメリアさんと、彼女と一緒にいる子達も招いて、皆で仲良くなろうよ!」

「おお! メルティは本当に心の優しい天使だな! アメリアも感動して悔い改めるに違いない!」


 お花畑二人のお茶会に招かれる公爵令嬢が気の毒だ、とクラスメイト達は思ったが、関わり合いになりたくないので心の中で同情するだけだった。アメリアがいわれのない嫌がらせをでっち上げられて婚約破棄された時も、彼らは心の中で同情するだけだった。





 オットー・アーバンフォークロア公爵は国王ヴィレム三世との謁見を果たしていた。

 だが、国王はいつにも増して覇気がなく、公爵の言葉を聞き流すだけだ。


「聞いているのですか! 陛下」


 公爵は苛立ちを隠さずに怒鳴った。


「聞いている。クラウスがアメリア嬢を侮辱して婚約破棄した件だろう。アメリア嬢には正式に謝罪と慰謝料を用意している」

「そうではありません! 何故、婚約破棄などお認めになったのですか?」


 国王は溜め息を吐いて椅子に深く沈み込んだ。


「若い者の情熱には勝てんよ」

「戯れ言を……っ」

「お主はもっと喜ぶべきではないか?」


 国王は冷ややかな目で公爵を見やった。


「関係のない家に嫁がせれば、アメリアは知らずに済むのだ」


 公爵は口を噤んだ。

 王家とアーバンフォークロア公爵家の罪に、アメリアは関わらなくて済む。国王はそう言っているのだ。


「……アメリア以外の者と殿下を婚姻させる訳にはいきません。秘密が漏れる危険性がある以上……」

「しかし、ずっと王家とアーバンフォークロア家だけで婚姻を結び続ける訳にはいくまい」


 国王は曖昧な笑みを浮かべて言った。


「アメリア嬢も、結婚ぐらい好きな相手とすればいいのだ。親の罪を勝手に背負わせられるのだから。それぐらい、認めてやればいい」

「……何を、甘いことを」


 公爵は歯噛みした。そんなことが、出来るならこの苦悩も罪悪感も少しは薄れるだろうが、無理に決まっている。


「コートリーの目があるのですよ?」

「そうだな。我らは『帝国の犬』だ」


 はっ、と吐き出すように、国王は笑った。




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