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怪60





『赤いチャンチャンコ』の席の隣に椅子を置き、『紫鏡』を安置する。

「これでよろしいかしら?」

「その辺に置いときゃいいのに」


 ソファに寝そべった花子が呆れたように言う。


「それにしても、あの二人組は何故ペレディル男爵令嬢を狙ったのでしょう?」


 メルティの話だと、あの男達は学園で彼女を殺すつもりだったそうだ。

 数日経って冷静になってから考えると恐ろしい結論が思い浮かんでしまって、アメリアは憂鬱だった。

 メルティが死んで得するーー或いは胸がすくのなんて、アメリアの頭には一人しか浮かばない。


「アメリアは、自分の父親があの娘を殺そうとしたって思ってるの?」

「……」


 花子に問われて、アメリアは沈黙した。

 メルティのせいでアメリアが王太子の婚約者の座を失ったのだから、公爵は邪魔者を排除して再びアメリアを婚約者の座に戻すと目論んでいるのかもしれない。


 今回はたまたま『紫鏡』がメルティを救ってくれたが、もしも公爵がメルティを排除するつもりなら諦めることはないだろう。


「どうしたら、いいのでしょう……?」

「公爵に「人間がすべてトイレの便器に見える」幻術でもかけましょうか?」

「気が狂ってしまうわ……そうではなくて、ペレディル嬢を守る方法が何かないかと」


 アメリアは頭を押さえて溜め息を吐いた。


「でもさー、王族の婚姻とかって国王が許可しなきゃ出来ないんじゃないの? 王太子が勝手に婚約破棄とか出来るの?」

「それは……破棄となったのですから、陛下ももちろん了承しているはずですわ」


 花子に尋ねられて、アメリアは答えながら首を傾げた。

 いくら王太子に他に好きな女性が出来たからといっても、「アメリアが嫌がらせをしたから」なんて理由で婚約を破棄すれば公爵が怒らないわけがない。それなのに、国王はあっさりと婚約を破棄した。


 ペレディル男爵にしたって、アーバンフォークロア公爵家を敵に回す恐ろしさは十分わかっているはず。それに、男爵令嬢が寵愛を受けたりすれば他の高位貴族だっておもしろく思わないだろうに。


「何か変ですわ……」


 アメリアは言いようのない違和感を感じた。

 メルティを守るためなら、出来るだけ早くメルティを高位貴族の養女にしてもらって、王太子の正式な婚約者にするべきだ。

 なのに、アメリアとの婚約がなくなった後も、メルティが婚約者に据えられる気配がない。クラウスとメルティは今のところ、ただの恋人同士というだけだ。

 メルティを王妃にするのが目的なら、何を置いても婚約を急ぐはずなのに。これでは、まるで……


「これでは、まるで……」


 まるで、クラウスとアメリアの婚約を破棄することだけが目的だったかのようだ。


(でも、どうして……?)


 悩むアメリアの耳に、扉の開く音が聞こえた。ユリアンが帰ってきたのだ。


「おかえりなさい」

「ただいま、戻りました」


 部屋から顔を出して出迎えると、ユリアンは足早にアメリアの前を通り過ぎて自室に入っていった。




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