怪54
夜の校舎は昼間と全然違う雰囲気で不気味だ。アメリアとハンナは身を寄せ合った。クラウスもちょっとびびっているが、花子が平然と進んでいくので負けじと足を早めた。
「では、俺は食堂へ向かい呪いを解く! お前達は俺の勇姿を見届けろ!」
「アメリア。あたしは一人でいいわ。ハンナと二人で鏡を覆ってきて」
「ええ。わかりましたわ」
「花子さん、お気をつけて」
女子三人はクラウスを無視して手分けして学園内の鏡を覆うために二手に分かれた。
「お、おい待て! お前等どこに行くんだ!」
クラウスは慌てて花子を追いかけた。
「子供が一人で行動するんじゃない! 何かあったらどうする!?」
「あたしは平気よ。ついてこないでちょうだい」
花子は迷惑そうに眉を歪めた。だが、クラウスは譲らない。この学園内で子供に何かあったりしたら、王太子である自分の失態となる。
花子はクラウスを無視して一一階のトイレに向かうと、洗面所の鏡に布をかけて覆い始めた。
「何をしているんだ?」
「ついてくるなら手伝って! はい、布!」
花子に布を差し出されて、つい受け取ったクラウスは命じられるままに鏡に布をかけていった。
「いや、なんで俺がこんなことを!? というか、なんだこれは!?」
「あー、鏡の持つ魔の力を封じて呪いの力を弱めるためよ」
花子は適当な説明で誤魔化した。
「魔の力を……? そうか! 『紫鏡』は鏡を使った呪いなのだな? だから、鏡を覆って力を緩めるのか!」
クラウスは勝手に納得して手際よく鏡に布をかけていった。アメリアとハンナも反対側の校舎から鏡を覆っていった。
「おい、あいつら何をしているんだ?」
二人の男は壁に隠れてクラウスと花子の様子を窺い、首を捻った。
「鏡を隠しているようだが……なんのためだ?」
「わからん。何か意味があるのか……?」
男達はクラウスと花子の後を尾けながらメルティの姿を探した。
クラウスは鏡に布をかけながら、ふと花子に尋ねた。
「そういえば、お前は何者だ? アメリアの縁者か?」
「あたしはアメリアの友達よ」
「アメリアに友達などいないだろう。公爵家の利益にならない者を公爵がアメリアに近づけるはずがない。そして、アメリアは公爵の言いなりだ」
クラウスは吐き捨てた。
「だから、嫌だったんだ。アメリアと結婚したら、公爵にただ操られるだけの人生だ。賢く言いなりになるアメリアよりも、愚かに立ち向かってくれるメルティの方が、俺にはずっと魅力的だった」
クラウスの言い分に、花子は次の場所に移動しながら目を瞬いた。
「他の女を好きになったのは別にいいけど、それでアメリアを貶めたのは許されないわよ」
「ふっ。正当な手順で婚約をなしには出来なかったからな。アメリアよりも公爵に吠え面をかかせてやりたかったんだ。それに、アメリアだって本当は……いや、なんでもない」
クラウスは笑って胸を張った。
「ざまぁみろ」
クラウスの乾いた笑い声が夜の校舎に響いた。




