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怪51





 ユリアンは一人静かに暴走しそうな自分を抑えていた。

 打ち消そうと思っても、人気のない校舎でショーンとアメリアが会っていた光景が幾度も思い浮かんでしまう。


 弟だと思われてさえいなければ、ユリアンだってアメリアに想いを伝えることが出来るのに。


 婚約破棄されたアメリアの心中を慮って、自分の気持ちと真実を伝えるのは後回しにしてきたが、それで他の男がアメリアにちょっかいを出す隙を作ってしまうのならもう我慢などしない。


(アメリアに伝える……僕達は血が繋がっていないと!)


 これ以上は己れを抑えきれず、ユリアンは真剣な顔つきで立ち上がった。

 だが、部屋から出ようとしたちょうどその時、扉が遠慮がちにノックされた。

 一瞬、驚いたが、気を取り直して扉を開けると、カップとポットを載せた盆を手にしたアメリアが立っていた。


「ユリアン……入ってもいいかしら」

「え? え、ええ」


 何故か少し怯えるような風情で頼りなげに見上げてくるアメリアに、ユリアンは動揺した。


「話があるのよ……その前に、お茶を淹れるわね」


 アメリアはソファに腰掛けたユリアンの隣に座り、ポットのお茶を注いだ。向かいではなく隣に座ったアメリアに、ユリアンの心が騒ぐ。


「姉上。話とは……」


 カップを差し出しながら、アメリアはぎゅっと目を潤ませてユリアンを見上げてきた。その目に飲み込まれ、ユリアンはアメリアを見つめたままカップを受け取った。

 ユリアンがカップを受け取ると、アメリアはさっと目をそらして俯いた。そして、花びらを震わせるような息を吐く。

 ユリアンはごくっと喉を鳴らした。動揺しているのを誤魔化すように、カップに口を付けて傾ける。急に体が熱くなった。


「わたくし……悩んでいるの」

「な、何をです?」


 空になったカップをテーブルに置くと、アメリアはたおやかな動作で新たな茶を注いだ。


「殿下と、ペレディル男爵令嬢のこと……」

「あの二人の?」


 ユリアンは眉をひそめた。あんな脳みそすかすかコンビのことなど、アメリアが気にする必要はないのだが、と思いながら続きを促すと、アメリアがそっと手をユリアンの膝の上に置いた。


 ユリアンの脳が沸騰した。咄嗟にその手を握ろうとしたが、アメリアはさっと手を引っ込めてしまった。ユリアンは行き場をなくした手でカップを掴んで、紅茶を飲み干す。どくっどくっとこめかみが強く脈打って、目が熱くなってくる。


「わたくし、あのお二人のことはもうなんとも思っていませんの……でも、周りの皆様はそうは思わないでしょう? わたくしが殿下に未練がましく縋っているだなどと思っている方もいらっしゃるようで……」


 ユリアンが手に持ったままのカップに、アメリアが紅茶を注いでくる。


「ユリアンもそう思っているかしら……?」

「まさか!!」


 ユリアンは勢いよく否定して、ぐいっと紅茶を飲んだ。体が熱い。


「あ、姉上は、はぁっ……あんあ、あんな、脳みそかすかすコンビのことぉなんら、き、気にする必要ないですよぉっ」


 吐き出す息がやたら熱い。アメリアの姿がぼやける。胸がどくどくと強く脈打って頭が熱くなる。


「あ、あねう……あめりあっ!」

「きゃっ」


 ぐらっと揺れた頭の勢いに従って、ユリアンはアメリアに覆い被さっていた。


「ぼくは……ぼくはぁっぐっ」

「いやーっ!!」


 アメリアをまっすぐ見つめて何か言おうとしたユリアンだが、扉の影から走り込んできたハンナに張り倒されてソファから転げ落ちた。


「アメリア様! ご無事ですか!」


 ハンナは床に転がったユリアンを無視してアメリアを助け起こした。


「だ、大丈夫ですわ。それより、ユリアンは……」

「寝てるだけよ。作戦成功ね」


 アメリアが真っ赤な顔でむにゃむにゃ言っているユリアンを見下ろした。


「ごめんなさいね、ユリアン……」


 アメリアは申し訳なさげに眉を下げた。花子が本邸から調達してきたブランデー入りの紅茶を飲ませるために、花子の演技指導通りに振る舞ったのだが、まさかユリアンがこんなに酒に弱いとは思わなかった。ちょっと眠くなって注意散漫になってくれるだけでも良かったのだが、床の上でぐっすり寝入ってしまっている。


「まあ、このまま転がしておきましょう」


 花子がそう言った時、ちょうど門の外に馬車が停まるのが見えた。





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