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怪48





 王太子クラウスは久方ぶりに学園の剣術部で剣を振るっていた。


「はっ!」


 ずっと稽古をサボっていたため、体が重い。それでも、何かを振り切るようにクラウスは剣を振るい、汗を飛び散らせた。


「ふむ。剣に迷いがあるご様子」

「ロウギィ翁!」


 クラウスに声をかけたのは、かつて「国一番の剣士」と讃えられた達人だった。一線を引いた後は後進の指導に当たり、昨年から学園の剣術部に招かれている剣士は、クラウスの剣を見てそこに雑念が込められていることを一目で見破った。


「何かを恐れておられるな」

「くっ……!」


 心を見透かされ、クラウスは唇を噛んだ。


「いったい、どうなされた?」

「得体の知れぬ呪いをかけられたのだ! この身は二十歳を迎えることなく滅びるかもしれぬ……っ」

「ほう……しかし、下賤の者にかけられた呪いなど跳ね返すのが王族の竜体。心を乱されぬことじゃ」

「うむ……その呪いをかけた者は下賤の者ではない。故に俺も全力で呪いを振り切らねばならないのだ」

「なんと」


 ロウギィ翁は白い眉をぴくりと跳ね上げた。


「ならば良いことを教えましょうぞ。かつて、クラナッハ王が若かりし頃に敵国の王族により呪詛をかけられたときのこと」

「お爺様が!?」


 クラウスは顔色を変えた。ロウギィ翁は遠い昔の光景が眼前に映し出されているかのように白い眉の下で目を細める。


「呪いをかけられた地で、一晩中夜が明けるまで剣舞を舞い、呪いを打ち払ったのですじゃ」

「一晩中……っ」

「左様。休むことなく、剣を降り続けたことで、悪しき呪詛を振り切ることが出来たのですじゃ」


 クラウスは剣を握る手に力を込めた。

 祖父に出来たのならば、自分にもきっと出来るはずだ。剣を振るうことによって呪いを打ち払うことが。

 クラウスは決意した。


「ありがとうロウギィ翁!」


 戦う覚悟を決めたクラウスが去っていく。その後ろ姿を見送ってから、ロウギィ翁は白髭を撫でた。


「やれやれ。あんなへっぴり腰で剣を振り回されちゃ危なっかしくて他の者の邪魔でしかない。おーい、もういいぞ。ここを使って稽古しろ」

「やっといなくなったんすか王太子」

「普段、だらだらとしてる癖に気紛れに邪魔しないでほしいっすよね」

「腕の力がなさすぎて剣を振り上げるだけでぷるぷるしてたじゃねぇか。笑うのこらえるのが大変だったよ」


 普段から厳しく激しい稽古に励んでいる者達は、普段から甘ったれている輩の気紛れ稽古もどきには厳しいのである。





「……ふぅ。学園の鏡はこれで全部ですわね」


 アメリアはすべての鏡を確認して額の汗を拭った。


「後はどうやって夜に抜け出すか……」

「アメリア!」


 頭を悩ませて眉根を寄せるアメリアに、足音高く近づいてきたクラウスが言い放った。


「俺はお前の呪いなどに負けはしない! 今宵、俺の渾身の舞で悪しき『紫鏡』の呪いを打ち破ってくれよう!」

「殿下っ……どこで『紫鏡』のことをっ?」

「白々しい! お前には思い知らせてやらねばなるまい! 今夜、公爵邸へ迎えをやる! 夜の学園で俺が呪詛を打ち破る瞬間をとくと目に焼き付けるがいい!」


 クラウスは一方的に宣言して、踵を返した。

 後に残されたアメリアは戸惑った。


「公爵邸へ迎えを……? もしや、殿下は『紫鏡』のことをご存知で、私にお力をお貸ししてくれるということ?」

(なんかちょっと違うと思う)


 姿を消している花子はクラウスが何か妙な誤解をしているのだと気づきながらも、別にいいかと放っておくことにした。




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