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怪46





 ユリアンによって勝手に恋敵に認定されたショーン・アルテロイドは学園の西棟三階階段の踊り場に佇んでいた。


「ショーン様」

「……来たか」


 足音も立てずに現れた生徒に、顔を向けずに語りかける。


「あれは事実か?」

「は。確かに、連中の拠点がいくつか襲撃され、見張り役が惨殺されたそうです」

「……何者の仕業なんだ?」

「まったくの不明です。今のところは」


 ショーンは腕組みしてふーっと息を吐いた。


「……『捧げ物』が逃げ出しているんだ。『公』はさぞかし焦っているだろう。近々、大きく事態が動くかもしれない。俺も、もう戻ることにする」

「かしこまりました。では、準備を整えます」

「ああ」


 来た時と同じく、足音もなく姿を消す生徒に、ショーンは最後まで目を向けなかった。


(じきに、この国は今の平和を失うかもしれない。それでも、何も知らぬ連中に、いい加減に目を開けさせなければならない)


 ショーンは既に決意していた。迷いなどない。


 背を預けていた壁から離れて、階段を下りようとした。その時、下の階からぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。

 足音は、一つ一つの教室の戸を開けて、すぐに締めて、また別の戸を開けるということを繰り返している。

 ショーンは眉をひそめた。


(何をしているんだ?)


 階段の途中から様子を窺うと、空き教室から出てくるアメリアの姿が見えた。何やらぶつぶつ言いながらノートに書き付けている。

 アーバンフォークロア家の娘アメリアがこんな人気のない校舎で何かをしている。それはショーンには見過ごせぬことだった。




「ここにも一枚、っと……ふう」

(無理しなくていいわよ、アメリア)


 姿を消している花子がアメリアのスカートを引っ張る。


「でも、あと少しだし……」

「何が、後少しなんだ?」

「きゃっ」


 いきなり男の声に尋ねられて、アメリアは飛び上がった。

 取り落としそうになったノートを抱きかかえて、アメリアは声の主を見上げた。


「ショーン様?」

「アメリア嬢。ここで何をしている?」


 ショーンは温度のない焦げ茶色の目でアメリアを睨めつけた。


「公爵令嬢が一人でこんな人気のない場所にいるのは良くない。ここに何か用があったのか?」

「い、いいえ……あの」

「その、ノートは?」


 アメリアが大事そうに抱きしめるノートに、ショーンはまっすぐに視線を注ぐ。アメリアは後ずさった。


「な、何でもありませんわ」

「人には言えないようなことでも?」


 アメリアはぐっと唇を噛んだ。以前からショーンには冷たく当たられていると思っていたが、猜疑心を湛えた目で見られるのは気分が悪い。


「……近頃、一人でいると鏡が紫に染まるという噂を聞きまして、本当にそんな現象が起きるか確かめていたんです」


 実際には、アメリアと花子は学園に存在する鏡の数を調べていたのである。『紫鏡』を捕まえるための準備だ。


「その噂は、俺も耳にしたが、アメリア嬢がそのような胡乱なものに飛びつくとは」

「以前の私でしたら許されないでしょうが、今のわたくしは何の立場もございません。ですから、好きなようにさせていただきますわ」


 つんと顔を背けて、アメリアはショーンに背を向けて逃げ出した。




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