怪44
公爵家の離れに戻ってきて、アメリアと花子は『紫鏡』を捕まえるための作戦会議を始めた。
「花子さん。『紫鏡』様を捕まえるには、どうしたらいいのです?」
「やつは今、学園の中にいるわね。人の多い騒がしい場所が好きな奴だから、当分の間学校から動く気はないと思うわ」
アメリアはお茶を淹れて花子の前に置いた。ひまわり模様のカップを傾けて、花子は眉を八の字にした。
「学園の中から出れないように結界を張った上で、学園の鏡を一つを残して全部布を掛けて隠す。そうすれば、奴はその残った鏡に逃げてくるはずだから、そこを捕まえるしかないわ」
花子は顔をしかめた。アメリアも思案するように俯く。学園の鏡を、一つを残してすべて布で覆うなど、アメリアと花子だけでは時間がかかりすぎる。
それに、当然他に生徒がいる間は実行できない。放課後、誰もいなくなるまで学校に残る、というのも、あまりに帰りが遅くなれば家から学園に問い合わされてしまうだろう。
「夜中に、学校に忍び込むしかないわね」
花子が呟く。
確かにそれしかないだろう。
「しかし、そうすると一度帰ってきてから、こっそり家を抜け出さねばなりませんのね」
アメリアは渋い表情で思案した。以前ならともかく、今は離れにユリアンがいる。アメリアと花子が抜け出そうとすれば気付かれる可能性が高い。よしんば上手く抜け出せたとして、アメリアの部屋に気配がないことにユリアンが気付けば騒がれてしまうだろう。
「弟君をどうするかね……」
花子も顎に手を当てて考え込む。
「ユリアンが眠ってから、そっと抜け出せば……」
「それから学園まで行って、鏡を覆って、なんてやってたら夜が明けちゃうわよ」
二人して「うーん」と考え込む。
「協力者が必要ね」
花子は悩むアメリアを見つめて頬杖をついた。この家をうまく抜け出したとしても、学園までアメリアを走らせる訳にもいかない。馬車が必要だ。
(いっそあの変態弟を仲間に引き入れるか? いや、あの男はきっとアメリアに協力するよりも、アメリアを自分の元に置いておきたいという欲望を優先するでしょう。こっそり家を抜け出すなんて知ったら、離れに見張りをつけてアメリアを囲い込みそうだわ)
花子の中で著しく信頼性の低いユリアンである。
「アメリア、ハンナの他に協力してくれそうな人はいない?」
「……ごめんなさい。お友達がいなくて」
アメリアはしおしおと小さくなって恥じ入った。
「ハンナに彼氏とか婚約者とかいないかしら? それか、信頼できる使用人」
「さあ……?」
アメリアはしゅん、と落ち込んだ。
自分はこれまで、他人と信頼できる関係を築いてこなかったのだと改めて思い知る。クラウスの婚約者であった時はそれとなく周りに侍る取り巻きらしき者はいたけれど、婚約破棄されて以降は誰も近寄ってこなくなった。
(わたくしがこんな情けない女だから、花子さんのお役にも立てない……)
目を潤ませるアメリアに、花子は「よしっ!」と膝を打って言った。
「協力者を作るわよ! アメリア!」




