表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/88

怪39





 子供達は学校へ行っている。

 離れには誰もいない。


 その離れにこっそりと忍び込む影があった。


「ふふふ……」


 誰もいないというのに、壁に張りつきながらじりじりと廊下を進む怪しい人影は、アメリアの部屋の扉をそっと開けた。


「義娘い・び・りは 義母のた・し・な・み♪ ふふふ~ん♪」


 妙な節回しでとんでもないことを歌う彼女はセレナ・アーバンフォークロア公爵夫人である。

 ユリアンの実母で、アメリアの義母だ。


「ふふふ……アメリアのいない間に、部屋の中をめちゃくちゃにしてやるわ。手始めに本棚からよ。作者順に並んでいる本を背表紙の色で分けて並べ直してやるわ。読みたい本がみつからずに戸惑うといいわ!」


 元々がお花畑な伯爵令嬢なので、やってることは大したことない。


「次はお茶のカップを新しいものと入れ替えてやるわ! ふふふ。バラの模様がひまわりに変わっていることに気付いた時の愕然とした表情が楽しみね!」


 実際には気付いても「侍女がお茶セットを新しくしたのね」ぐらいにしか思わないであろうが。


「さて、次は……」


 悪事の限りを尽くす非道な義母であるセレナは、さらなる悪事を働こうと部屋の奥へ足を踏み入れた。すると、椅子に座った人影に、思わずぎくりと硬直した。


 赤い服を着た何者かが椅子に座っている。一瞬、生きている人間かと思った。だが、よく見るとそれは人形だった。


 人形、と言っても、布を人型に切って縫い合わせて綿を詰めただけの適当な代物だ。その簡素な人形に、奇妙な形の赤いガウンを着せてある。


「な、なんなの、この不気味な人形は!」


 人形には一応、顔が描かれていたが、その虚ろな目と半開きの口が余計に不気味さを強調している。額に「肉」と書かれているのも意味が分からなくて怖い。


「こ、これはまさか……悪魔の儀式に使われた人型では!?」


 そう言えば、先日から夫は離れを「悪魔の館」と呼んで近寄ろうとしない。その代わりに息子が離れに住み着くようになってしまった。


「な、なんてこと……」


 この不気味な人形はきっと召還した悪魔を宿らせる形代に違いにない。真夜中に動いたりする。たぶん。


 戦慄するセレナだったが、恐怖はそれで終わりではなかった。


「ひっ……」


 壁に掛けられた釣り竿、その糸の先に、小さなビスクドールが括り付けられており、恨めしげにこちらを見ていた。


「ひいい!」


 たまらず、セレナは逃げ出した。離れから飛び出して本邸に戻るまで、あの不気味な人型が追ってくるのではないかと不安でたまらなかった。


「離れは悪魔に支配されているわ! アメリアは悪魔に魅入られてしまったのだわ! ユリアンも、もう……ああ! 神よ!」


 そんな風にセレナを怖れおののかせた人型であるが、実際は『赤いチャンチャンコ』をいつまでも椅子にかけて置くわけにはいかないと思ったアメリアがチャンチャンコ掛け用に作っただけである。魂の宿った『赤いチャンチャンコ』を自分の服と一緒にクローゼットに閉じこめるのも気の毒だと思ったからだ。ちなみに顔を描いたのは花子である。

 そして、釣り竿に括られた人形は修行用である。


 だが、そんなことは知らないセレナは「悪魔の呪い」を怖れるあまり「窓の外に赤いガウンを着た人形が!」と怯えて使用人達を困らせた。


 まあ、『赤いチャンチャンコ』は歴とした怪異であるので、怖れるのは間違いではないのだが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ