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怪38





 運動なんてしたこともなかったから最初は筋肉痛に悩まされたが、最近はだいぶ素早く動けるようになってきたとアメリアはちょっと誇らしくなった。


「次こそは、『メリーさん』を捕まえてみせますわ!」


 気合い十分のアメリアと共に怪異を探して校舎をうろついていた花子は溜め息を吐いた。


「鍛えすぎてムキムキにはならないでね」

「ムキムキは難しいでしょうけれど、でも、最近は気配にも敏感になってきたような気がしますの!」


 確かに、ここ数日の間「嫌な気配がしますわ」とか言って、進行方向で待ち伏せしている王太子と男爵令嬢を回避したことが何度かあった。修行の成果が出ているようで喜ばしい。

 そんな風にアメリアと花子が怪異を探してふらふらしている頃、張り裂けそうな胸を押さえて悶えている少女がいた。


(ああ……この前のユリアン様の態度は、やはりそうなの? そういうことなの……?)


 図らずもユリアン・アーバンフォークロアの胸の内を聞いてしまった少女、ハンナ・オリアーノである。


(い、いけないわ。お二人は異母姉弟……私などが邪推することは許されない……ああ、けれどっ)


 ここ数日、思考回路は堂々巡りでハンナは苦しんでいた。

 いっそ誰かに吐露してしまいたい。でも、誰にも聞かせるわけにはいかない。


「はあ……」


 重い溜め息を吐いて、ハンナは階段を降りていた。踊り場に差し掛かり、いつものように何気なく曲がって階段を降りていく。

 ふと、違和感を感じて、ハンナは振り返った。

 踊り場はいつもと何も変わらない。


(気のせい……?)


 首を捻りつつも、ハンナは踊り場に背を向けて階段を降りた。





「くそっ! アメリアの奴、最近俺のことを避けているな! そんなことをして俺の気を引くつもりだろうが、まったく無駄なことを!」

「そうよそうよ! クラウスを避けるだなんて何様なの!」


 誰だって避けたくなるわ、とクラスメイト達に内心で思われていることに気付かないクラウスとメルティは、今日も教室でアメリアの悪口を言っていた。悪口と言っても、二人とも語彙力が貧困なので大したことは言えていない。それもまた哀れである。

 そこへ、廊下を颯爽と歩いている人影があった。


「あっ! ショーン!」


 めざとくそれを見つけて、メルティが駆け寄る。


「なんか久しぶりじゃない? この頃、ユリアン君もそっけないし、寂しかった~」


 ショーンは面倒くさそうにメルティを見下ろした。


「メルティ。悪いが、しばらく俺は忙しくなりそうなんだ」

「えっ、そうなの?」

「ああ。これでも騎士志望だからな。鍛錬をさぼる訳にはいかない」


 ショーンの言葉に、メルティは口を尖らせた。


「ぶー。鍛錬なんか少しぐらいサボってもいいのに。この国は平和なんだから」

「そうだぞショーン。この国は北の大国と同盟を結んでいる限り、安泰だ。北の大国と長年戦っている西の王国の連中は我が国に手を出せないからな」


 クラウスがメルティの言葉に同意する。この国は、北の大国と同盟関係にある。北の大国と西の王国はクラウス達が生まれる前から戦っているが、戦火がテイステッド王国へ及んだことはない。

 ショーンはすいっと目を細めた。


「だが、国を守る方法は「戦うこと」だけとは限らないからな」

「ん?ああ、まあ、そうだな」


 ショーンは身を翻した。


「この国は、「守られている」……今は、な」


 小さく呟いた声は、誰にも聞かれていなかった。




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