怪35
ハンナ達的にはいきなり出現した薄気味の悪い手紙を、手にとって封を切る。
『こんばんは。私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』
そう書かれた手紙を見た瞬間、ハンナは背後にゾッとする気配を感じた。
と、同時に、アメリアがハンナの腕を引いた。
「アメリアっ!」
花子の声が響く。
ハンナを抱き留めたアメリアは、空中に浮かぶ人形を確かに目にした。
だが、人形はほんの一瞬で消え去ってしまう。咄嗟に手を伸ばしたアメリアだったが、その手に触れるものは何もなかった。
「逃げられたわね……」
花子が悔しそうに呻く。
「な……なんだ、今のは……!? 人形……っ?」
ユリアンが蒼白な表情になって立ち上がった。
アメリアと花子は目を見合わせた。ユリアンが人形を目にしていなければ誤魔化しようはあると思っていたけれど、あの一瞬で、ユリアンは人形の姿を目撃してしまっていた。
「姉上っ! いったい何に巻き込まれているんですっ!?」
ユリアンはアメリアに詰め寄った。
「こんな異常なことに、アメリアをーー姉上を関わらせたくないっ! どうかご自分の身の安全だけを考えてくださいっ!!」
「ユリアン……」
真剣な表情で訴えくるユリアンに、アメリアは胸が熱くなった。てっきり、自分はもう異母弟に見放されているのだと思っていた。まだアメリアのことを心配してくれるほどの情は残っていたのかと、こんな時なのに少しうれしくなってしまった。
「ありがとう、ユリアン……でも、わたくしは大丈夫よ」
「姐上っ……」
アメリアはユリアンを制して、怯えて取り乱すハンナを落ち着かせた。
「アメリア様っ……私、私……あ、あれはいったい……」
「落ち着いてください」
「ハンナはもう大丈夫よ。あれは、一度失敗した相手には執着しないから。別のターゲットを見つけるはずだわ」
花子がそう言ったので、アメリアは思わずほっとした。だが、すぐにそれはまた別の者が脅かされるということだと気づいて気を引き締める。
「厄介なことになったわね……」
悔しそうに呟く花子の声に、アメリアは息を飲んだ。
どこの世界でも、人間の愚かさは変わらないのだな。目の前の光景を見てそう思う。
狭い部屋に閉じ込められた子供達は、涙を流す者、虚ろな目をする者、ぐったりと動かない者、と、些細な違いはあれどすべて売られていく運命であることに変わりはない。
そんな子供達を眺めていると、背後に自分以外の気配が生まれるのを感じた。
「よっと……ちょっと、どういうことよ?」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……『花子さん』の奴、人間と手を組んでるわよ。私を捕まえようとしてきたわ」
「おやおや。『赤いチャンチャンコ』が捕まったというのも、本当だったみたいね」
女はニイッと赤い唇で笑った。
「笑いごっちゃないわよ。なんとかしてよね。『花子さん』は怪異の中ではトップクラスの知名度。人間に恐怖の存在として認識されているほど、私達は強くなるのだから、『花子さん』に勝てるのはアンタか『人面犬』ぐらいしかいないんだから」
「ふふふ……そうね。『花子さん』は手強いわ」
女は愉快そうに目を細めた。
「けれど、私は……」
「おい、なんだ!? お前、どこから入った!?」
扉が開けられて、人相の悪い男達が入ってくる。彼らは女の姿を見て乱暴に手を伸ばしてきた。
「なんだこの女っ!」
「ここを見られたら生きて返すわけにいかねぇ!!」
「ふふふ……」
女はゆらりと立ち上がった。
「ねぇ、私キレイ?」
女は男達に問うた。
「あ?」
「何言ってやがるコイツ?」
ふわりっと、空気が揺れる。
次の瞬間、男達の体は真っ二つになって床に転がっていた。
「けれど、私は負けないわ」
女は、いつの間にか手にしていた大鎌をゆったりと振るう。
「知名度は同じくらいでも、子供達により怖れられていたのは私、『口裂け女』なのだから」
女は耳まで裂けた真っ赤な口で笑った。




