怪33
突然飛び込んできた弟に、アメリアは眉をひそめた。
「ユリアン、貴方、お客様の前でその振る舞いは何です?」
「申し訳ありません、姉上。しかし、偶然、耳に入ったのですが、何やら不穏な会話をなされていたご様子。公爵家に危険が及ぶのであれば、到底見過ごすことは出来ません」
ユリアンは正当性を主張するようにアメリアを見据えた。
(あああアメリアが危ない目に遭ったらどうしてくれる!! 子爵令嬢が何に狙われていようが知ったことか! アメリアの安全が優先!)
冷静に見えるが脳内は荒れ狂っていた。
「ユリアン。公爵家に迷惑をかけるようなことはしないわ。だから、放っておいてちょうだい。貴方には関係ないの」
「関係ないわけがないでしょう? 姉上は既に王太子に婚約破棄された身の上、この上まだ何か問題を起こせば、公爵家の者は皆、嘲笑にさらされます。どうぞ、ご自重ください」
アメリアとユリアンはまっすぐに睨み合った。(ユリアン的には「みつめあった」)
「あ、アメリア様……」
自分のせいで揉めていると思ったハンナがおろおろしていると、それを制して花子が立ち上がった。
「アメリア。それならば、弟君にもこの部屋で見張ってもらえばいいじゃない」
「え……?」
「おい! 姉上を呼び捨てにするな!」
ユリアンに咎められても、どこ吹く風で花子は続ける。
「男手がある方が、ハンナも安心するでしょう? 『メリーさん』を捕まえるために使えるものは使うべきよ」
「おいっ! 口の効き方に気をつけろ!」
怒るユリアンを無視して、花子はアメリアの腰に抱きつく。本日のアメリアは男子服なので、花子がぎゅーっと抱きつくと、ますます腰の細さが強調されかつなんとも言えない背徳的な絵図になる。
「くっ!……あ、姉上。この無礼な子供はいったい何者なのですか!?」
若干上向きになりながら、ユリアンが問う。
「ハナコさんはわたくしのお友達よ。……ユリアン、わたくしを見張りたいのなら、そこに座っていなさい」
ソファを指し示すと、アメリアはユリアンから視線を外して花子と共に椅子に戻った。
(くっ……あの子供は気に入らないが、アメリアと同じ部屋で過ごすチャンス!)
ユリアンは憮然とした表情を作りながら、三人からは少し離れた位置のソファに腰掛けた。
(見張っていいとアメリアが許可したんだ。見張る、見張る……)
ここぞとばかりにアメリアにじーっと鬱陶しいほどに視線を送るユリアンに気付いて、花子が「うへぇ」と言いたげな表情を浮かべた。
(前から思っていたけれど、この弟……アメリアを見る目が普通じゃないわよね。やっぱりアメリアはこの世界から逃げた方がいいわよ。変態弟に狙われているだなんて、可哀想に)
アメリアのためにも早く日本に帰れるようにしよう、と、花子は改めて決意を固めた。




