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怪32





 離れとはいえ、公爵家の敷地に足を踏み入れたハンナはがちがちに緊張していた。


「本邸の方ではなくて申し訳ありません」

「いえいえ、そんなっ! 離れでも恐れ多くてっ」


 ハンナはぶんぶん首を横に振った。


「それで、ハンナ様にわざわざ来ていただいたのは、例の手紙の件なのです」


 アメリアが切り出すと、ハンナも神妙な顔になった。


「わたくしの知り合いに、偶然、あの手紙のことを知っている者がおりまして……ご紹介させてください」

「失礼します!」


 ばーん、と扉を開けて入ってきたのは花子である。もちろん、学園からずっと姿を消してついてきていたのであるが、姿を現して扉の前で待っていたように見せかけた。


「ハナコ・レットノーイと申します!」

「亡くなった母の知り合いのお嬢さんで、隣国から遊びに来ておりますの」


 適当な家名をでっち上げて誤魔化し、花子はアメリアの隣に座った。


「さて、早速ですが。ハンナ様、貴方は危険な者に狙われています!」


 花子がキランと目を光らせた。


「ど、どういうことでしょう?」

「この手紙を送ってくるやり口が、我が国で起きた犯罪と酷似しているのです!」

「は、犯罪ですって!?」


 ハンナが驚愕の声を上げた。



 同時に、驚愕の声を脳内で上げた者がいた。


(犯罪だとっ!?)


 この離れにいるもう一人の人間、ユリアンである。彼は扉の外で聞き耳を立てていた。盗み聞きである。


(あの子供……怪しいとは思っていたが、アメリアを危険に巻き込むつもりだな!)


 ユリアンはぎりりと歯噛みした。

 扉の向こうでは花子の話が続いている。


「このように、『メリーさん』を名乗る何者かが手紙を送り自分の居場所だけを知らせてくるんです。そして、その居場所は日に日に近づいてくる」

「そ、そうなんです。気味が悪くて……」

「この手紙は、最終的には『今、貴方の後ろにいるの』になります! そして、本当に何者かが背後に立ち、危害を加えようとしてくるのです!」

「ひっ……!」


 恐怖のあまり青ざめたハンナを、アメリアが励ますように手を握った。


「おそらく、今日にもこの者はハンナ様の後ろに立たれるでしょう」

「そんなっ、どうすればっ……」

「ご安心ください。わたくし達がお守りしますわ」


 アメリアは力強く言い放った。


「そ、そうですわよね。公爵家ならば、容易には侵入できませんわ。そのために私を連れてきてくださったのですね」


 ハンナは少し安心したように微笑んだ。

 だがその時、


「お待ちください!」


 扉を開けてユリアンが飛び込んできた。




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