怪30
今日も今日とて、王太子と男爵令嬢は校門前で仲良く張り込んでいた。
「くくく、見ていろメルティ。今日こそアメリアをぎゃふんと言わせてやるぞ!」
「すご~い、クラウスかっこいい!」
具体的に何をする気なのか知らないが、登校してくる生徒の邪魔である。先ほどから迷惑そうな表情で避けて通られているのだが、二人はいっさい気にしない。
「ふん。アメリアの奴め。強がっている振りをしているが、内心は俺への未練で一杯なんだ。だから、俺にはメルティしか目に入らないとたっぷり見せつけてやらなくてはな!」
「やだ~、クラウスってば~」
花子に聞かれたらトイレットロールでめった打ちにされた挙げ句に生涯トイレに辿りつけない呪いに掛けられそうであるが、幸いなことに公爵家の馬車はまだ到着していなかった。
やがて、ひときわ立派な馬車が到着し、普段通りに公爵令嬢が校門をくぐる。
が、その姿に周囲は息を飲んだ。
「姉上!」
続いて馬車から降りた公爵令息が、異母姉を引き留める。
「どうして、そんな格好をしているのですかっ!?」
アメリアは眉をしかめて振り向いて弟を見た。
「馬車の中でも何度も答えたじゃない。ドレスでは動きにくいからよ」
「動きにくいって……貴女には動く必要がないでしょうっ!?」
「いいえ。今日の私はすべきことがあるのよ。そのためには、ドレスなど脱ぎ捨てて挑まなければならないの」
きりっと告げるアメリアの瞳には、揺るぎない覚悟が宿ってきた。
「だからって……なんで僕の昔の頃の服を着ているんですか!?」
ユリアンは真っ赤になって叫んだ。
そう、本日のアメリアの服装は、貴族の子息が着るきらびやかではあるが動きやすい装束だ。
「貴方がもう着れなくなった服だから構わないでしょう? でも、わたくしだけが貴方の服を借りるのは公平ではないかしら。だったら、貴方もわたくしの服を着てもいいわよ」
「えっ、本当ですか……って喜ぶ訳ないでしょう!! 公爵令嬢が人前でズボンをはくだなんてありえません! 今すぐ脱いでください!!」
「なんて破廉恥なことを言うの!? わたくしに恥辱を与えるつもり!?」
「あ……いや、違う! 違うんです! 脱げって言ったのはそうじゃなくて……ああもう!」
ユリアンは夕日のような色の赤毛をぐしゃぐしゃ掻きむしった。
そんな異母弟には構わず、アメリアは目的の人物を探して目を走らせた。
「ハンナ様!」
「え? アメリア様?」
前方を歩いていたハンナを見つけ、アメリアは颯爽と彼女に駆け寄った。
「ハンナ様。昨日はありがとうございました。よろしければ、本日は貴方を我が家へお迎えしたいのですが」
そう言って恭しく手を差し出す美貌の公爵令嬢の男装は、年頃の乙女達の胸にクリティカルヒットした。
「アメリア様……騎士様のようだわ……」
「素敵、絵になるわ……」
「ハンナ様が羨ましい……」
乙女達はほうっと羨望の溜め息を吐き、男達は突如として繰り広げられた令嬢同士の美しい光景に胸をどきどきさせた。
そして、王太子と男爵令嬢の存在は、皆から完全に忘れ去られていた。




