怪29
「ある日、電話……ええっと、遠く離れた人ともお話出来る異世界の道具よ。その電話が鳴って、それを取ると相手は「私、メリーさん。今どこそこにいるの」と言って切れるのよ。そんな電話が何度もかかってきて、だんだん「いる」と言う場所が近づいてくるの」
公爵家の離れへ帰って、アメリアは花子から『メリーさん』の話を聞いていた。
「だんだん自分の近くへくるメリーさんに怯えて、ここから逃げようと思った時、また電話がくるの。そして、メリーさんは言うのよ。『今、貴方の後ろにいるの』」
「不法侵入ということですか!? なんてこと!」
アメリアは『メリーさん』とやらの常識のない振る舞いに頭を抱えたくなった。
彼女はきっと、満足な教育を受けられなかったに違いない。
(この国の教育を、もっと誰もが受けられるようにしなくては……)
今度、孤児院を慰問した際に子供達の教育がどうなっているのか尋ねてみようと心に決め、アメリアは『メリーさん』にも手紙の書き方を指導する必要があると感じた。
「花子さん。『メリーさん』を捕まえたらわたくしがお手紙の書き方をお教えして、ハンナ様へ謝罪の手紙を書かせますわ」
「別にいいけど。まあ、本当は電話を使うんだけど、この世界に電話は無いから手紙で知らせるしかなかったのね。ご苦労様だわ」
花子はふっと笑い飛ばした。しかし、すぐに眉を曇らせる。
「とはいえ、『メリーさん』は結構厄介よ。捕まえるのは簡単じゃないわ」
花子が難しい表情を浮かべるのを見て、アメリアもごくりと息を飲んだ。
「最終的に『メリーさん』は必ず相手の背後に現れるの。捕まえるチャンスはその時にしか無いわ」
「ど、どのようにすれば……っ」
「この手紙、一番新しいのは「二丁目の質屋」ね。てことは、明日にでもハンナの背後に現れる可能性があるわ」
アメリアは不安に駆られた。時間がない。
「とりあえず、明日はハンナをこの家に招きなさい。そうしたら、手紙はハンナがいるこの家に届くはずよ」
「わかりましたわ」
花子の指示に、アメリアは覚悟を決めて頷いた。しかし、『赤いチャンチャンコ』の時は個室に隠れていたところを見つけたのだが、『メリーさん』は一つところにじっとしていないようだ。逃げられてしまうと捕まえようがなくなる。
「絶対に、逃がさないようにしないと……」
アメリアは自分に何が出来るのかを真剣に考えた。




