怪28
「申し訳ありません。アメリア様をご招待出来るような家では無いのですけれど……」
「あら。わたくしが押し掛けたのですから、むしろこちらが申し訳ないですわ」
オリアーノ家の前でひたすら恐縮するハンナに、アメリアは眉を下げて微笑んだ。
ハンナの両親も飛んできて、冷や汗を掻きながらアメリアを出迎えた。彼らからすれば、娘が突然公爵令嬢を連れて帰ってきたのだから心臓に悪い。
「ハンナ様に無理を言ってお邪魔してしまい、申し訳ありません」
「は……っ、いえ、そのような!」
「とんでもございません!」
仰天していても人の好さがにじみ出ている夫妻で、アメリアは少し羨ましくなった。
「アメリア様。こちらで少々お待ちくださいませ。手紙を取って参ります」
テラスに案内され、侍女がお茶を運んでくる。アメリアは庭を眺めながらハンナが戻ってくるのを待った。
「お待たせいたしました」
ほどなくして、数通の手紙を盆に載せて、ハンナが戻ってきた。
「これが、その手紙ですの。見せていただいて構わないかしら」
「ええ。どうぞ」
アメリアは一通の手紙を手にとって、中を改めた。
そこにはこう書かれていた。
『こんにちは。私、メリーさん。今、六丁目の肉屋の前にいるの。』
あまりのことに、アメリアの手が震えた。
「これは……っ」
言葉を失うとはこのことだ。こんなことがあってはならない。
「時候の挨拶もハンナ様への敬称もご機嫌を伺うこともなく、自分の名前に敬称をつけるだなんて! なんて常識のない……この方はきっと淑女教育を受けておられないのだわ!」
「ええ。私も最初に読んだ時は驚きに息を飲みましたわ。幼い子供でも、もう少ししっかりした手紙を書くと思いますわ」
「このような無礼な手紙を何通も送りつけるだなんて、到底許されざることです!」
他の手紙も皆、内容は同じだ。今いる場所が「六丁目の肉屋」から「五丁目の噴水前」や「四丁目の帽子屋」に変わっているだけだ。
憤るアメリアの袖を、姿を消した花子がつんつんと引っ張った。
(アメリア。これは都市伝説よ)
「これが……?」
「アメリア様? どうなさいました?」
顔色を変えたアメリアを見て、ハンナが心配そうに眉をひそめた。
「いえ、なんでもありませんわ。それより、このようなイタズラを放って置くわけにはまいりません。よろしければ、このお手紙はわたくしに預からせていただけないでしょうか」
「え、ええ。正直、私はこの手紙をどう扱っていいか悩んでおりましたの」
ハンナは情けなさそうに眉を下げる。このような得体の知れない手紙を、処分するのも怖かったのだろう。アメリアは安心させるようにハンナの手をぎゅっと握った。
「わたくしにお任せください。必ず、ハンナ様の元に手紙が届かないようにしてみせますわ」




