怪22
返事のない個室に向かって、アメリアは意を決して話しかけた。
「もし。そこにいらっしゃるのでしょう?」
声も物音もしないが、戸には鍵がかけられて開かなくなっている。中に何者かがいるのは確かだ。
「お話があるのです。貴方が、残酷で恐ろしい罪を犯す理由は、わたくしにはわかりません」
アメリアは静かに語りかけた。
「貴方はきっと、生まれた時からずっとそうしてきたから、ご自分のやっていることの恐ろしさを知らないのでしょう……貴方の立場からすれば、ご自分のなさっていることは自然なことで悪ではないのだとお思いなのかもしれません」
(ちょっと、なんの話してんのよ?)
隠れて聞き耳を立てているメルティは、何やら深刻そうな話をし始めたアメリアに戸惑った。
「ですが、わかっていただきたいのです! 罪のない人々を殺めることは、許されぬ行いなのだと!」
(あ、あ、殺める!? なんの話!?)
アメリアの口から出た思わぬ物騒な話題に、メルティは度肝を抜かれた。
「どうかお願いです! もうこんなことは止めて、わたくしと共に教会へ参りましょう! 心から神に許しを乞い、犠牲になった子供達に祈りを捧げるのです! わたくしも、『赤いチャンチャンコ』さんと共に祈ります!」
(何に首突っ込んでるのよーっ!!)
メルティが心の中で絶叫したのと同時に、隣の個室が勢いよく開く音がした。
突如として開いた右端の個室から、覆面で顔を隠した男が現れ、アメリアに掴みかかったてきた。
「アメリア!」
花子が咄嗟にアメリアを庇い、代わりに男の手に捕まる。
「花子さんっ!」
「ちっ! なんだこのガキは! まあいい。おい、このガキに何かされたくなきゃ大人しくしろ!」
男は片手で花子の両手をひとまとめにして拘束した。小柄な花子では暴れてもふりほどけないだろう。
(まぁ。あたしは人間なんかに捕まらないけど)
いざとなったら、いくらでも抜け出せる。花子はそう知っているため慌てることもないが、アメリアは花子を人質に取られて青ざめた。
「は、花子さんを放してください!」
「うるせぇっ! なんでテメェが俺らのことを知っているのか、教えてもらおうか!」
「あ、貴方達のこと……?」
「さっき、名前を呼んだだろうが!」
アメリアは思わず花子と目を見合わせた。
(この方が、『赤いチャンチャンコ』さん?)
(まさか。ダメでしょう、怪異といえど、こんなマッチョな男が女子トイレにいたら)
(では、何か勘違いをなさっておられるのかしら? 誤解を解かねばなりませんね)
(どんな勘違いだろうと、覆面した男が女子トイレに侵入したことは事実だからこの野郎はお縄になるけどね)
アメリアと花子はアイコンタクトで会話を交わすと、覆面男の説得にかかった。
「すいません。どうか、花子さんを放してください。放していただければ、悪いようにはしませんわ」
「やかましい! 俺から仲間の情報を得ようとしたって無駄だぜ! 俺は拷問されても喋らねぇからな!」
覆面男はポケットからナイフを取り出し、花子の首筋に突きつけた。
「花子さんっ……!」
アメリアはごくりと息を飲んだ。




