怪19
「ありがとうございました、アメリア様」
教室に戻る途中で、ハンナが言った。
アメリアが首を傾げると、ハンナは苦笑した。
「私の話を信じてくださって。今思うと、もしも私だったらトイレからおばあさんの声がしたなんて言われても、すぐには信じられないかもしれないなって」
「ああ……」
ハンナは恥じ入るように目を伏せた。
「アメリア様は、……昨夜のことでご心痛でいらっしゃるでしょうに、私などのためにお声を上げてくださって……申し訳ありません。私は昨夜アメリア様をお助けできなかったというのに、私だけ助けられて……あの、私、アメリア様が男爵令嬢をいじめただなんて、信じてませんから」
ハンナはそう言うと、深ぶかと頭を下げて去っていった。
「いよっと!」
ハンナの姿が見えなくなったところで、花子が姿を現した。
「花子さん。『赤いチャンチャンコ』さんは逃げてしまわれたのでしょうか?」
「うーん。たぶん、まだこの学園にいると思うわ。そう簡単に根城を変えないと思うのよ。この世界は日本と違って学校も少ないしね」
花子は頬に指をあてて首を傾げた。
「もしかしたら、トイレに戻っているかもしれないわ」
「でしたら、わたくし、もう一度行ってみますわ」
アメリアは踵を返して、再び西棟へ向かって歩き出した。
「大丈夫? 怖くないの?」
「怖いですけれど……他の生徒が犠牲になったら大変ですもの。『赤いチャンチャンコ』さんは早く捕まえるべきですわ」
アメリアは躊躇することなく西棟へ足を踏み入れた。花子はその後を追いかけ、黄昏時の校舎を小走りに駆け抜けた。
「んふふ~♪ 人気のないトイレって言ったらここよね!」
アメリア達が立ち去った後、ほとんど入れ替わりのようにして西棟のトイレにやってきたメルティは、じめじめとした雰囲気に鼻を鳴らした。
「ここに閉じ込められれば、泣いて謝るでしょ! いい気味だわ!」
ほーほっほっほ!と安い高笑いを上げる。
「よーし、顔を布で隠して、後はクラウスがアメリアをおびき寄せるのを待つだけね!」
メルティはうきうきと用意した布で顔を覆った。覆面姿になったメルティはアメリアを脅して個室に閉じ込めるために発声練習を始めた。
「んんっ……あー、もっと低い声の方がいいかな。あ、あ、あ”ー……んっ。あ”ー、お、おとなしくしろぉ、抵抗しても無駄だぜぇ、おとなしくしてりゃあいい思いさせてやっからよぉ、へっへっへっ」
小悪党っぽい台詞の練習に励んでいると、ガタン、と音がして、外からトイレの窓が開けられた。




