怪18
ハンナが嘘つき呼ばわりされるのを見過ごせず思わず口を挟んだアメリアだったが、特に何か考えがあった訳ではない。
だから、教師とハンナの視線が集中して思わず息を飲んだ。
「どうしてそう思うのかな、アメリア嬢」
「え……と……」
たらりと冷や汗を流したその時、手のひらにふわっと温もりが重ねられた。
(花子さん……)
目には見えないが花子が傍にいることを思い出し、アメリアは少し冷静になれた。
(とにかく、『赤いチャンチャンコ』さんによる犠牲者を出さないようにしなければ……生徒が一人でトイレに行かないようにし向けるには……)
国一番の才媛と言って過言ではないアメリアの脳がめまぐるしく動いた。
「……確かに、わずかな時間に老婆が素早く逃げおおせるのは難しいでしょう。ですが、それが老婆ではなかったとしたら?」
「何? しかし、ハンナ嬢は老婆の声だったと……」
「ええ。ですから、相手は老婆の振りをしていたのです!」
アメリアは力強く言い放った。
「老婆の振り? 誰が何のために?」
教師は困惑気味に眉をひそめている。それに構わず、アメリアは言い募った。
「先生、近頃は少女を狙った誘拐事件が増えていると伺っております」
「あ? ああ、平民が何人か行方知れずだとか……」
「わたくしも聞きかじっただけですが、中には平民の通う学校で姿を消した者もいるとか。つまり、少女を誘拐した犯人は学校に侵入していたということですわ」
アメリアの語る内容に、教師は眉を跳ね上げた。
「つまり、誘拐犯が侵入して老婆の振りをしていたといいたいのか?」
「その通りですわ!」
アメリアは力を込めて言った。
「おそらくはトイレの個室に隠れて、生徒が一人でやってくるのを待っているのです! そして、機を見て老婆を装った声を上げるのです! 個室から老婆の声が聞こえてくれば、誰だって何かあったのかと思い声をかけますわ! 心配して個室へ近寄ってきたところを捕まえて誘拐するのです!」
強引な内容であっても、力強く押せば乗り切れることもある。アメリアは力強く語った。力押しである。
「ハンナ様によると、その声は『赤いチャンチャンコ』なる物をいるかいらないかと問うてきたそうです。『赤いチャンチャンコ』という不思議な言葉は、もしやなんらかの暗示の呪文なのかもしれません! 「いる」あるいは「いらない」と答えると、暗示がかかって抵抗できなくなってしまうのではないでしょうか! ハンナ様は質問に答えなかったので辛くも魔の手から逃れることが出来たのですわ!」
「そんなっ……」
アメリアの熱弁に、ハンナが顔を青ざめさせた。
「そんな恐ろしい犯罪者がここにっ……? ああ、怖いですわ!」
「ええ。ですから、しばらくの間、トイレに行く時は一人ではなく必ず誰かお友達と行動するようにした方がよろしいですわ!」
恐怖のあまり倒れそうになるハンナを支えて、アメリアは主張した。一人でなければ、『赤いチャンチャンコ』も出てこれないはずだ。
「ふうむ。にわかには信じられんが、一応、他の先生方にも話しておこう」
教師は半信半疑といった様子だったが、頭ごなしに否定されなかったのでアメリアはほっとした。
「では、この件についてはとりあえず私が預かる。お前達はもう帰りなさい」
教師に促されて、アメリアとハンナは西棟のトイレを出て教室へ戻った。




