怪11
ユリアン・アーバンフォークロアは逸る胸を抑えることが出来なかった。
(とうとう……やった!)
異母姉と王太子の婚約を破棄させた。その喜びに、顔がにやけるのを止められなかった。
ユリアンがこの家にやってきたのは八歳の時だ。そして、一つ上のアメリアと出会った。
アメリアと出会った瞬間の衝撃はいまだに覚えている。この世の中にこんなに美しい少女がいるのかと思った。
だから、彼女に「弟」としてしか認識されないのは悔しかった。
異母姉——いや。
ユリアンは知っている。
(僕と姉上——アメリアは姉弟なんかじゃない)
自分が公爵の子供ではないと、ユリアンは知っていた。
母は元々伯爵令嬢だった。だが、未婚の身でユリアンを身ごもった。そこで、母の両親は妻を亡くしたばかりだった公爵に母をあてがったのだ。すぐに妊娠したことにして、医者に金を握らせて早産だと誤魔化した。
アメリアの母親は出産で命を落としたため、アメリアがまだ赤ん坊だからと、ユリアンの母は別宅を与えられていた。
あれはユリアンが七歳の時だった。別宅の庭で、母が男と抱き合っているのを目にした。
二人はユリアンに気付いていないようで、ひっそりと愛を囁きあっていた。
その男は、ユリアンにそっくりだった。
その光景を、ユリアンは誰にも話さなかった。だが、胸にしまい込んだだけで決して忘れた訳ではなかった。
十四歳になった頃から、ユリアンは密かに男について調べた。その結果、男は伯爵家の元使用人で、ユリアンの母と愛し合っていたことがわかった。
そして、身ごもった母が早産だと誤魔化して自分を産んだことも。
つまり、ユリアンはあの男と母の間の子供であって、アメリアとは血が繋がっていない。
この結果を得た時、ユリアンは昏い喜びに身を震わせた。
血が繋がっていないのだから、ユリアンがアメリアに惹かれたってしょうがない。
だから、王太子と結婚する前に、アメリアをさらって逃げるつもりだった。あんな愚かな王太子に、アメリアはもったいない。
そう計画していたところ、思いがけぬチャンスが転がり込んできた。野心にまみれた馬鹿女が王太子の周りをうろつき始め、裏でアメリアを追い落とそうと目論んでいたのだ。
ユリアンは、あえてその馬鹿女にだまされる振りをしてやった。王太子の口から婚約破棄を引き出すために、さりげなく誘導した。
その努力がとうとう実ったのだ。
(これで、アメリアは僕のものだ)
王太子に婚約破棄されたら、新たな婚約者を得るのは難しい。
アメリアは修道院行きかどこかの後妻に収まるかだ。その事実に打ちひしがれるアメリアに、「一緒に逃げよう」と持ち掛けるのだ。
実は自分は公爵の子供じゃない。このままでは、公爵家を乗っ取ることになってしまう。そんな恐ろしい罪を犯したくはないから逃げる。一緒に来てほしい。と口説けば、皆に見捨てられて弱ったアメリアは頷くに違いない。
(ああ、アメリア。辛い想いをさせて悪かった。でも、あんな王太子と結婚するよりもずっと幸せにするから!)
アメリアへの愛を伝える言葉で頭をいっぱいにしながら王家の馬車で送られて帰宅したユリアンが目にしたのは、頭から便器に突っ込んでびしょ濡れになった公爵が使用人に運ばれてくる姿だった。




