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最弱勇者の英雄譚  作者: ギン次郎
1章 始まりの旅の始まり
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第4話 安寧のレッドライン

 ジャー、と流れる水の音が。


「……」


 ジャー、と流れる水の音が続く。


「……、……」


 この水音はシャワーの音だ。

 現在ホムラが部屋のバスルームでシャワーを浴びており、その音が部屋に響いているのである。


「……、……、……」


 そして、それはもちろん部屋で物凄い顔になっている天宮晴馬の耳にも。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 時は1時間前。

 ハルマの財布発見及び大金発見から、ゼロリアで一番豪華な宿屋に泊まることにした二人。

 結果街を歩き回ってこの宿屋に着いた訳だ。

 がしかし、もちろんハルマが宿屋の手続き諸々の方法を知っているはずがない。

 なのでその辺りはホムラに任せたら……こうなってしまった。


 ――何で!?


 純粋思春期ボーイ天宮晴馬にはもちろん女の子と同室に泊まった経験などない。

 故に彼は今、死ぬほど動揺と混乱をしていた。

 なんならこっちに来たばっかりの時よりも。


 ――待て、落ち着け、落ち着くんだ……。俺は六音時高校生徒会長代理、天宮晴馬だぞ……。


 そりゃもちろんホムラを襲ったりとかはしない。

 ハルマはそんな飢える狼の如き色欲の暴徒ではないのだ。

 だが……仮にも生徒会長代理の立場に立つ者がこういうのは良くないのではないのだろうか。

 少なくともクラスの男子にバレたら羨ま死させられる。

 ……しかも、問題はこれだけではなかった。


 ――何で……何でベット、セミダブルベッドなんだよ!!!


 まあサイズは結構大きめだが。

 デカかろうが何だろうが、そのベットというだけでハルマには大問題である。

 こんなベットで女の子と寝るなど言語道断。

 現生徒会長の菅野字先輩にバレたら粛清されることだろう。


 ――や、やっぱり俺はソファーで寝るか……?


 だが、ハルマはそれを決心出来ないでいた。

 ……別にホムラと一緒に寝たい欲に負けている訳ではない。

 決して違う、ちゃんとした理由があるのだ。


 ――ホムラにとって、今の状態は想定内なのか……?


 ホムラが現状をどう捉えているのか、それが最大の問題だ。

 ホムラが現状を受け入れている場合、ハルマがあのデカいベッドがあるのにホムラを避けるようにソファーで寝るとどうなるだろう。

 ホムラからすれば「ハルマは私と寝るの嫌なのかな……」と、まあここまでストレートではなくても何かしら良くない誤解に繋がることだろう。

 それはいけない。

 この異世界で現状ハルマが頼れるのはホムラだけだ、つまりホムラとの仲たがいは結果的には死を意味する。

 それは、絶対に、避けないといけない。

 と、こういう深い理由があって悩んでいるのであって、決して欲に負けている訳ではないのだ。

 負けている訳では、ないのだ。


 ――落ち着け天宮晴馬。よく考えろ、よく考えて一番良い答えを導き出すんだ……。


 顔は冷静だが、中身はえげつないことになっているハルマ。

 その時、そんなハルマの様子など全く知らぬホムラがバスルームから出てきた。


「お待たせ、先に入らせてもらってありがとうね」


「あ、いやー……気にすることはないと俺は思っていることだよ」


「?」


「あ、えっと、じゃあ俺もお風呂に失礼することだよ」


「あ、うん……。行ってらっしゃい」


「行ってくるだよ」


 ハルマ、語彙力壊滅。

 バスローブ姿のホムラに一発でやられてしまった。

 結果、何を言えばいいのか訳が分からなくなってしまったのである。


「どうしたのかしら……」




 ―バスルーム―

「ヤバい、ヤバい、ヤバい……」


 さて、一人になっても相変わらず語彙力死にまくりのハルマ。

 微妙にいい香りの残る浴室に集中力がかき乱される。


 ――てか、今更だけど普通こういうのって女の子が先に入るものだっけ?


 別にハルマは後風呂からの変態行為に移行したりはしないが。

 それはそれとして湯舟に入るのは避けておいた。


 ――まあ、一応な……。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……」


 さて、滝修行のように頭からシャワーを浴びながら、なんとか冷静になろうとするハルマ。

 どうにかして冷静になって、一番良い道を探さないといけない。

 そうでもしないと脆弱なハルマのメンタルはもうすぐ死んでしまうだろう。


 ――……そもそも、元の世界の常識はどこまで適用される?


 根本的な問題だ。

 ハルマは今死ぬほど動揺しているが、それは元の世界の常識と価値観から考えての結果。

 この世界でそれが通用する道理など欠片も存在しないのだ。

 つまり、この世界では別にうら若き男女が同じ部屋で夜を明かすなんて普通のことかもしれない。


 ――だとしたらこの世界の男たち、自制心強すぎるだろ……。


 まあ、ハルマは襲ったりはしないが。

 そんな勇気ないし。


 ――実際そこのところどうなんだろうか……。案外異世界じゃ何でもないことなのか? それとも……ホムラが……?


 この部屋を選んだのは他ならぬホムラだ。

 そうなると、現状考えられる可能性は3つ。


 1 ここしか部屋がなかったから仕方なく。

 2 天然、深い意図なし。

 3 つまりそういうこと。


 ――……これ、3だったらどうすればいいんだ俺。


 浮かび上がった(上がってしまった)可能性が頭から離れない。

 もし、もしこれだった場合。

 もし……。


 ――……アホか。そんな訳ないだろうが、今日会ったばっかりなんだぞ。そうだ、ホムラはどうも俺を若干子供みたいに見ているところがあるし、そういうことなんだろう。


 強制思考中断。

 ハルマは無理矢理それを考えないようにして、風呂からあがったのだった。




 ―んで部屋―

「お、お帰り。良いお湯だった?」


「うん、まあ」


 ホントは一切湯舟には入っていないが。


「そっか、それは良かったわ。まあこんないい宿なんだし、当然かもしれないけどね」


「そうだねー」


 ホムラは既にベットで横になっていた。

 ……これはあれか、とりあえずハルマもベットに入ることには抵抗はないのか。


「……」


 さて、どうすればいいのかまるで分からないハルマはとりあえず椅子に座る。

 そして使えないはずのガラケーをいじるフリをして……ホムラの反応を待つことにした。

 ダサいが、これが最適だろう。

 下手に勝手な判断をするより、こういう時は相手に任せるべきだ。


「……」


「……」


 しばし続く沈黙。

 ハルマはずっと意味もなく電話帳を上から下へループ、ループ。

 ホムラはしばらくベットでゴロゴロ。

 時刻は夜10時、なんとも微妙。

 10代後半の就寝時間にしては……少し早い。

 (ホムラがいくつかは知らないけど)


「ねえ、ハルマ」


「な、何!?」


 沈黙は壊された。

 さあ、ホムラが紡いだ言葉は……?



「まだもう少し……起きていられる?」



「……。……!?!?!?!?!」


 なんとも意味深な言葉だった。


「えっと、それは、何故で、ござりまするか?」


「私……、今凄く暇なんだけど」


 ――ぬえあああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!


 天宮晴馬、大絶叫(脳内で)

 混乱と、動揺が、同様に、脳内で、暴走し始める!!!






 ――がしかし、


「一緒にトランプでもしない?」


「……へ?」


 次の言葉で、一瞬にしてその動揺ははじけ飛んだのだった。




 ―結果―

「やった! また私の勝ちー! ハルマスピード弱いのね」


「まあ、俺最弱な感じですしー……」


「じゃあ、別のにする?」


「なんでもよろしーですよー……」


 ――なんで異世界にトランプあるんだろー……。


 口も脳も、紡ぐのは虚ろな言葉。

 ホムラのド天然に振り回された天宮晴馬は完全に燃え尽きてしまっていた。

 まあその結果としてハルマは何も気にせずベットで眠れたので、結果オーライなのではないのだろうか。


【本日のプチIFルート:ホムラと別の部屋で寝た場合】

 ハル「ま、ですよね……」

 泥棒「ふっふっふ、待ってたんだっつーの」

 ハル「な!? なんでここに!?」

 泥棒「昼間の復讐だっつーの!!! 連れていけ!」

 ハル「ぬえええええええええ!?!?!?」


 結果、『最弱勇者の盗賊譚』へ。



 次回 5話「ハルマと最初の英雄譚」

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