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幼馴染と一緒におとなになった。


R-15ってこれくらいは大丈夫って認識であってます?


 今年中学校に入学してから、僕と幼馴染のみのりには不思議な能力が発現した。

 ――いや待って。ちゃんと聞いてほしい。中二病とかじゃないから。マジだから。

 二人がすぐそばにいるときにだけまれに発動して、二人揃って未来の自分達へと意識が憑依するっていう能力なんだけど。


 微妙な言い方になったけど、未来への憑依というのがどういったものか分かる?

 未来視とか予知夢とは違うものかって?

 まったく違う。

 断片のビジョンが見えたり、なにが起こるかを予知するといった曖昧なものじゃない。というか、世界の役に立つような重要な出来事が出るわけじゃない。あくまで僕らの体験だから。


邯鄲(かんたん)(ゆめ)』って聞いたことないかな。枕を借りて栄枯盛衰の五十年の人生を夢に見たけど目が覚めたら元の時間っていう。

 あれの短いのを何度も繰り返しているような感じ。一生とかじゃなくて大抵は数十分から数時間くらい。未来の自分の時間をそっくり体験して、それが過去の出来事であるかのように夢よりもはっきりと自分の中に記憶が残ったまま、元の時間の一瞬後に戻ってくる。

 でも向こうでは見てるだけ。意識や体感とかは全部普通なのに、指先一本動かせないし言葉も発せられない。まるで未来の自分の体験ツアー。



 これが、困るんだ。

 なにが困るって、僕とみのりが大学生なのに同棲&結婚していて、しかも周りの人間が砂糖を吐きそうなほど学内でも部屋でもいつもイチャイチャしている自他ともに認めるバカップルで、おまけに毎日愛を確かめあう行為に溺れている。

 最後のをなんで知っているのか? 憑依で何度も体験したんだ。みのりとのらぶらぶえっちを。

 しかも画面越しのエロい動画とかそんなレベルじゃない。無修正の超高精細全周VRモード(五感あり)だよ。

 中学一年生になんてものを見せるんだ。18禁だぞ。

 いやあんなことするんだね恋人同士って。甘ったるくてエロくて凄かったし感動もした。やってるのは自分たちだけど。


「……たまに、まだ純真だった頃の私たちに戻りたくなる」

「実践付きでエロ知識を無理やり詰め込まれてる感はあるよね」


 その能力で、僕とみのりは一緒におとなになった。




 僕の幼馴染の形原(かたはら)みのりは、少女マンガや恋愛小説に出てくる、周りから常に注目されるような美少女……とかじゃなかった。

 僕は整ってて可愛いと思うんだけど周りからは人並みの容姿って評価。流行りの顔立ちじゃないとかそういう感じなのかも。髪はくせっ毛だからって伸ばしたりせずショートにしてる。同級生よりも幾分ちんまりしてて、ちょっと子供っぽい体型。胸が目立たない服装だと、細い少年に見られることもあるみたい。

 勉強も運動も趣味も、飛び抜けているところは持ってない平凡女子。でも優しいけど芯はあって、こつこつ努力できて、他人を思いやれる女の子。

 身内びいきってよく言われるけど、みのりのことは幼い頃から普通に大好きだった。


「いっしょにお風呂入ったことがある相手だから、大好き?」

「言い方!!」

「裸のつきあいは、だいじだよ?」



 幼い頃からご近所さんで、僕らはずっと仲が良い。血縁のある親戚ではないけど、まるでイトコのような距離感。

 それを誰かにからかわれても、みのりは「なんで(ゆう)くんと仲が良いとヘンなの?」とか素で言ったりする。相手は毒気を抜かれておしまい。僕も似たようなことを言う。もう家族みたいな感じだしね。

 お互いに遠慮がないのが良かったのか、幼馴染に特有の距離感をからかわれて、途中で疎遠になったりすることはなかった。


「一番古い記憶にも、一番新しい記憶にも、悠くんいるよ?」

「僕も似たような感じだけど。ちなみに一番古い記憶ってどんな?」

「まっぱの悠くんがまっぱの私に抱きついて号泣してる」

「僕らになにがあったのそれ!?」

「……覚えてない」



 平凡な幼馴染で嫌だと思ったこともない。むしろ美少女の幼馴染とか、いたら疲れそうで僕も困っただろう。それこそからかわれたり嫉妬されて疎遠になったかもしれない。僕も平凡男子だし。

「いやー、みのりが可愛くなくて良かったよ」とはさすがに言えないけど。あれ? 言ったことあるかな? あるかも。

 失言に焦って「いや、僕にとっては可愛いんだけど」って続けたら、なんか照れたような拗ねたような不思議な反応されたような。


「……むぅ」

「可愛いよ?」



 二人の独特の距離感から、悪意のない友人から『中学生夫妻(笑)』なんて呼ばれることもあった。もう恋人の段階は通り過ぎてるらしい。

 ただ、オトコだからオンナだからとか、恋愛相手とかの意識はあまりなかった。恋が薄くて家族愛が濃いとか、そんな感じ。

 お約束の、幼馴染が誰かから告白されて焦って異性として意識しちゃう、みたいなのもなかった。僕とみのりはそもそも誰かから告白されたりしないクラスカースト。地味モブ枠だしね。

 僕はみのり可愛いなーとかはたまに思ってたけど、妹的な?可愛いじゃないかな。たぶん。


「焦る悠くんも見てみたいけど、逆に普通に祝福されそうで困る」

「みのりなんか言った?」

「なんでもない」



 お互いの両親は僕らがずっと意識して好きあってるみたいに考えてるフシがあったけど、当人同士はそんな感情はあまりなかった気がする。皆無であったとまでは言わない。異論は認めない。

 中学生になっても異性という認識も薄いまま二人でよく遊んでいた。ふたりとも発育が良いほうじゃなくて身体も小さくて、あまり性差を意識するようなこともまだないままだったし。


「お互いに少しずつ背も伸びてるのに、目の高さ変わらないよね」

「そんなところまで仲良くなくてもいいのにな」



 未来への憑依はすぐそばにいるときに発動すると言ったけれども、最初にそうなったのは僕の家のリビングでだった。

 夜になるまで僕の家には両親がいないことがわりと多く、その日も僕らしかいなかった。確かテレビに向かって並んで某対戦レースゲームをやってた気がする。色っぽい雰囲気なんていつも通りかけらもなかった。コントローラーを持ったまま、ふっと意識が遠のくまでは。



 意識が戻ると、見覚えのない部屋にいた。いるのは自分ともうひとり。たぶん大学生くらいのお姉さん。

 ……なんか見覚えがあるというか、みのりのお母さんに似てた。おっぱいがそこそこあって色っぽい。いやもちろんみのりのお母さんはこんなに若くないけど。たしかさんじゅ……げふんげふん。歳については触れると笑顔で怒られるので黙秘したい。


 僕じゃない自分が、長い髪がさらさらのお姉さんを座ったまま後ろから抱きしめて、その髪を何度も指に絡めていた。なんだっけこれ。あすなろ抱き?

 時折くすぐったそうにしながら、そのお姉さんはまったくいやがっておらず、その指に時折頭を擦り付けたりしながら幸せそうに微笑んでる。


 自分のもう片方の手は、お姉さんのお腹のあたり。さわさわと手のひらで触ってる。僕の同級生とかお腹触ると嫌がりそうだけど、そんな感じもなくて信頼感がすごい。くすぐったそうだけど甘えてるみたいな。

 視点的には自分の手なんだけど、お姉さんを触ってるのは自分の手じゃなかった。僕の手よりもだいぶ大きい。お姉さんの背格好から考えて、視点も高いから身長もだいぶ違うのかも。


 お姉さんがこちらを少し見上げるようにしてあごを突き出し、目を閉じた。誘われるように身を乗り出して、少しだけひらいてぷるっとしたお姉さんの唇に、自分の唇を合わせる。

 少年マンガ少女マンガのような、触れるだけのキスじゃなかった。お互いに唇の隙間から舌の先を突き出して、絡めあって、いやらしい音をたてながらぬめぬめした感触を触れ合わせる。お腹に置いていた手が徐々に下がっていきお姉さんの――


「……悠」

「みのり……」


 睦み合いながら呼びあったふたりの名前に、思考がしばらく止まる。


 はあっ!?

 え、ちょっとまって? この色っぽいお姉さん、みのり? それで彼女にエロいことしてるの、僕?


 僕が混乱しているうちに、二人は行為を先にすすめていた。二人とも手慣れた感じで服を脱いで下着姿に。うわおっぱい大きい。カタチすごい綺麗。ありがとうございます。

 手足を絡め合ったりぎゅって抱きついて肌を触れ合わせるのが好きみたい。すりすりしたり撫でたりしてるの、見てると甘くてこっちが気恥ずかしい。

 合間合間に何度も甘えるように短くキスしながら、二人は下着を全部取り去って全裸で向かい合った。自分の顔は見れないけど、お姉さんの顔はさっきよりも蕩けてる。嬉しそうに微笑むと、お姉さんは指先で僕に触れて、そしてそのまま顔を近づけて唇に僕のを――


 みのりが、えっちで大人なみのりが、僕の――

 僕のが、みのりの開いたままのところからとろっと流れ出して――


 途中経過は興奮と混乱で夢中になっていて、よく覚えていないことにしておく。



 二人が最後まで色々として、気怠げな空気の中で抱き合ってキスをしたあとくらいで僕が正気に戻ると同時に、憑依がぶつんと切れた。


 気がつけばリビングにいた。顔が熱い。心臓がバクバクと音を立てていた。

 さっきまでのお姉さんの姿が、現実かと思うような精度で脳裏に一瞬だけ再生される。仰向けになってベッドに横たわったお姉さんに、僕はゆっくりとおおいかぶさって――


 次の瞬間には、腕の中にいるのは裸のみのりに切り替わってた。

 いや待て、いまのみのりも可愛いけど、ここ数年は裸を見たことはない。これはただの妄想。水着姿までしか記憶にはない。


 脳裏で、全裸のお姉さんと、いまのみのりの水着姿と、記憶に残る幼いみのりの裸が重なって、全裸姿のいまのみのりが合成される。

 お姉さんとは違う小さくてツンと立った胸。脂肪の少ない腰へのライン。無毛の――

 ちょっと待て!!!



 思春期の少年が持て余した性欲に暴走して妄想を夢で見たのかと思って、恥ずかしさとみのりへの申し訳無さでいっぱいになる。

 さっきまで愛し合ってた、大人びたお姉さんの綺麗な裸とか肌の感触とかぬくもりとかつながったときの気持ちよさの残滓が全身に残っていて、これ以上なく興奮してた。なのに出してはいなくて、前が痛いほど張っていた。


 自分が荒く息をついているのを自覚しながら、隣を見る。

 これで、みのりがきょとんとした顔でこっちを見てたら、恥ずかしさで顔を合わせられずに数日間は引きこもった自信があった。


 まあそのみのりは、僕の隣で下着をぐっしょりと濡らして上気した頬でぷるぷるしながら僕の服の端を掴んで、上目遣いでなにか訴えていたんだけど。


 あ、これみのりも見たやつだって思った。


 そんなみのりがすぐ側にいるだけで頭が沸騰しそうだったのに、


「あの、」

「……僕ら同棲してた?」

「してたみたい。……えっちもしてたね、私たち」


 それだけ言うと、みのりは耐えきれなくなったかのように僕に抱きついてキスをした。

 僕も応えた。ファーストキスなのに、未来で体験した、舌の絡まったディープなやつで。

 しばらくのあいだ、競うように互いの舌を絡め合う。そこから溶け合って身体中が繋がってしまえと願うかのように。

 端的に言えば、ふたりとも呆れるほどサカッていた。互いに瞳にハートマークくらいは浮かんでたかもしれない。

 息が苦しくなってお互いに顔を離すと、唾液が二人の間に糸のようにつながっていた。ぼうっとした表情のみのりが、未来で見た蕩けた表情のお姉さんと重なったのは偶然じゃない。



 みのりと手を握ったままで僕の部屋に移動した。階段を上るのでしてほしそうにしてたお姫様抱っこは諦めた。恋人繋ぎのまま一緒に階段を上る。

 部屋の扉を開けたあとで、不意打ち気味にみのりの身体をお姫様抱っこして、ベッドの上に運ぶ。嬉しいのか、にこっと笑ったみのりが僕の首筋にしがみついてきた。なにこれ可愛い。


 そのまま、まだ恋人ですらなかった幼馴染の二人が初体験へとなだれ込んだのを責めることはしないでほしい。

 初めてのベッドの上で肉体的接触を存分にしながら何度も好きって言い合って告白して繋がる前には恋人同士だったからたぶん倫理的に問題はない。はず。

 あ、もちろん身体は童貞と処女だったけど(みのりが血を流してるのに嬉しいなんて不思議な気分だった)、お互いの未来の知識と体験のおかげでわりとスムーズに進められたと思う。さすがにみのりは痛いみたいで涙目になってたけど嬉しそうだったし、終わる頃にはいくらか甘い声を上げてた。


 ういういしさとかは欠けてたけど、逆に良かったかもねって終わったあとに裸で抱き合いながら、みのりと言い合った。ぎこちなさがなかったのがちょっと残念な気もするけど、一生忘れられない初体験になったと思う。


 未来憑依の後押しがなければ、男女間の距離に疎い僕らが、互いに好きになってもこじらせたまま恋人にならずに大人になったり疎遠になったりしていたかもしれない。恋愛小説みたいに10年後に再会して再燃とか。

 そんなの勿体ないにもほどがある。ハッピーエンドなら良いってもんじゃない。


 いまみのりと恋人になってずっと一緒にいて、楽しいこともそうでないことも隙間なく積み重ねていったほうが良いに決まってる。中学生活も高校生活も、みのりと一緒なら楽しそうだしね。


 というわけで、なんのために与えられたのかもわからないその能力に、僕らは感謝している。

 役に立っているかと問われると困るけど、それが僕らの関係を変えるきっかけになったのには間違いないから。





 未来への憑依は、その後もたまに発動した。

 そしてそのたびに僕とみのりに余計な知識が増えた。自重してほしい。


 どんなタイミングで発動する能力なのかは結局よくわからない。それがなんでみのりと一緒にいるときだけに発動するのかも。


 そもそも見てるのが本当に未来の出来事なのかもわからない。まだ検証できてないし証明もできない。最低でも大学入学以降――六年くらいは先の未来にしか憑依できたことがないから。ただの妄想だったら痛すぎる。


 でも、幼馴染の中学生夫妻(笑)とか呼ばれてるのに全然そんな関係でもなかった僕とみのりは、現在恋人同士で、未来では学生結婚する予定で、たぶん子供もたくさん産んで幸せになるので。


 別にそんなことはわからなくても、どうでもいいかって思えるんだ。







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