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追放王子と残酷王妃  作者: ナナイロナイト
第二幕 愛し合う二人
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明かされた事実

 夫人の外出中、ユウキとアサヒは、日差しの降り注ぐバルコニーで二人の時間を楽しんでいた。

 ここにいるのは二人だけ。誰にも遠慮はいらない。

 額をくっつけて見つめあい、鼻先をこすりあい、優しいキスをする。

 空を飛ぶ野鳥のさえずりが、祝福の旋律のように聴こえる。


「もうすぐユウキの12歳の誕生日ね」

「父上が夕食を共にしようと言ってくださっているよ」

「いつもプレゼントを送ってくるだけだったのに、珍しいことね」

「12歳は特別だからだって」

 アサヒの誕生日パーティーは、親戚一同が集まって盛大に行われる。その場でユウキもついでに祝われるのが通例だった。

 ユウキ一人のために、わざわざ場を設けることは異例だった。

「ねえ、その時に私たちのことを正式に許してもらえるよう、父上にお願いしない?」

「そうだね。いい機会だ」

 二人は永遠の愛を誓いあっていた。

 姉弟として許されないことだと分かっていたが、どうしても諦められなかった。

 愛のためなら後ろ指差される覚悟もできている。

 一生離れないでいられるよう、ソコレイニ伯に許しを請おうと考えていた。



 ユウキの誕生日を祝う夕食会がささやかに開かれた。

 参加者はソコレイニ伯爵夫妻とユウキとアサヒだけ。

「ユウキ、12歳の誕生日、おめでとう」

 ソコレイニ伯から直接祝福を受けたことのなかったユウキは、とても嬉しくなった。

「ありがとうございます。こうして大きくなれたのも、父上と母上のおかげです」

「うむ。立派になったな」

 ソコレイニ伯爵夫妻は、満足気に頷いた。

 アサヒが前に出た。

「ここでサプライズです。ユウキに私からもプレゼントがあるの」

 アサヒは、紙粘土で作った指輪を取り出した。

「いつの間に作ったんだい?」

 ユウキは大げさに驚く。

「ウフフ。気づかなかった?」

「全然」

「どうぞ。つけてみて」

「ありがとう。大事にするよ」

 ユウキは喜んで受け取ると、指にはめる。左手の薬指にピッタリはまった。

「今度、僕も作って返すね」

 子供同士の無邪気なやり取りを、ソコレイニ伯は微笑ましく眺めた。

 いい感じだと、ユウキとアサヒは思った。

 これは、例の件の前振りだった。

 いつ言おうかとタイミングを計る。


 一通りのコース料理を食べ終えたところで、ソコレイニ伯が切り出した。

「12歳になれば、大人への第一歩を踏み出したようなもの。そこでユウキに大切なことを伝えようと思う」

「はい」

「アサヒもよく聞きなさい」

「はい」

 改まって何を言われるのかと怖れたユウキとアサヒから笑顔が消えて、緊張で固くなる。

「ユウキは私たち夫婦の子ではない。身寄りのない親戚の子を引き取ったのだ」

「……」

 ユウキとアサヒは一瞬愕然としたが、次の瞬間、お互いに顔を見合わせて抱き合い喜んだ。

「アサヒ!」

「ユウキ!」

「今の話を聞いたかい?」

「ええ、しっかりと!」

 二人がショックを受けるよりも大喜びしたので、今度は夫妻が唖然とする番となった。

「ショックじゃないのかい?」

「ショックです。だけど、とても嬉しいです」

「どういう意味だね?」

「だって、血がつながっていないなら、僕たちは結婚できると言うことですよね?」

「結婚⁉ お前たち、そんな関係だったのか?」

 一緒に暮らしていないソコレイニ伯は、この事実を知ってショックを受けて思わず腰を浮かした。

 それを知ってしまうと、先ほどの指輪の件も笑ってすませられない。

「お前は何をしていたんだ!」

 その怒りは夫人に向けられる。

「申し訳ございません」

 夫人は二人の仲の良さを知っていたが、姉弟としての仲の良さだと思っていた。

 真実を知らせたことで、二人の関係がさらに進んでしまうとは夢にも思わなかった。

「父上、母上は関係ありません」

「母上を責めないで」

「まったく……」

 二人の子から言われて、ソコレイニ伯はなんとか怒りを抑えて座りなおした。

「父上、母上、お願いがあります」

「なんだね?」

 二人は、椅子から降りると、片膝ついて夫妻に頭を下げた。

「僕とアサヒを結婚させてください!」

「私からもお願いいたします」

 しっかりと手を繋いでいることで真剣さが伝わる。ソコレイニ伯爵夫妻はめまいを感じた。

「いっそ、ずっと黙っていて、この先も姉弟として暮らさせた方がよかったかもしれないな」

 ソコレイニ伯爵夫妻は、ため息をついた。

「お願いします」

 頭ごなしに反対しても、愛の炎が燃え上がって暴走するだけと、大人二人はよく分かっている。冷静になるよう努めた。

「お前たちはまだ子供だ。その返事はまだできない」

「では、反対されないのですね」

 実質、許可を貰えたようなものだと、ユウキとアサヒは手を取り合って喜び合った。

 それを見た夫妻は、二人が現実に結ばれてしまう前に、寄宿学校に入れる話を早急に進めなければと思った。


「父上、それで、僕の実の両親は誰なんですか? なぜ、預けられたのですか?」

「普通はそっちの質問が先に来るものだろう」

 ソコレイニ伯は呆れた。

「遠い親戚だ。名前は聞いても分からないだろう。もっと大きくなったら教えてやるよ」

 バラストゥル王とメローア妃の子供だということは、まだ明かせない。

 本人やアサヒが知ったことで、どこから外に伝わるか分からないからだ。

 追放した王子が生きていたと王家に伝わってしまえば、あの悪魔の妃にどんな報復をされるか分からない。それを恐れていた。

 せめて、ユウキが自分の身を自分で守れる大人になるまでは伏せておくつもりだった。

 そう考えるに至った原因だが、サリルリ妃の悪評が人としてあり得ないほどの恐ろしさだったからだ。


「ユウキもアサヒもよく聞きなさい。二人を寄宿学校に入学させる」

「え?」

「寄宿学校ってなんですか?」

「男女別々の全寮制の学校だ。それぞれ違う学校に入れるよう手配してある。ありがたくもメローア妃から推薦状を賜っている。これで合格は間違いない。一か月後には生活を移せるよう、荷物をまとめておきなさい」

 青天の霹靂。

 姉弟では結婚できないとあきらめていたところからの、実は他人だったという喜び。

 そして、絶望。

 これをほんの数分で経験した二人は言葉が出なくなり、大好きなケーキが喉を通らなかった。


 それから二人は毎日泣いて過ごした。

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