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追放王子と残酷王妃  作者: ナナイロナイト
第二幕 愛し合う二人
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愛し合う二人

 8歳になったユウキとアサヒは、広大な屋敷でかくれんぼをしていた。

 アサヒが隠れ役でユウキが鬼だ。

「いーち、にー、さん……」

 玄関ホールでユウキが10数えている間に、アサヒは隠れることになっている。

 数え終わったユウキは叫んだ。

「もういいかい⁉」

「まーだだよ!」

 アサヒは、まだ隠れ場所で迷っていた。

 ユウキは、再度、10数える。

「いーち、にー、さん……」


 今回隠れる範囲は建物1階と2階のみ。

 範囲を決めておかなければ、広い屋敷を捜すのは負担すぎる。

 建物は3階建て地下2階。1階はリビングホール、食堂など。2階が家族用、3階は客用の使っていない部屋が並んでいる。

 建屋は、母屋のほかに、来客用の離れ、召使い用の離れ、庭に納屋。

 外では広大な庭園が広がる。

 鴨が飛んでくる大きな池もあり、ほとりには東屋がある。

 ただし、池に落ちたら大変なので、子供たちだけで近づいてはいけないと言われている。


 こんなに広いのに、住んでいる家族は母と自分たちだけで、あとは数名の侍女、召使いと庭師だけ。

 ソコレイニ伯は月に一度泊まりに来る。その時は夕食を共にする。

 ユウキは、ソコレイニ伯が怖くて一緒にいると緊張してしまう。

 優しい言葉を掛けてくれることもなく、興味を持たれることもないせいで、親しみを感じたことはない。

 誕生日プレゼントは毎年くれるので嫌われているとは思っていないが、お礼を言うのも苦手で、いっそいらないとさえ思ってしまうほどだった。

 この家の救いは、母のソコレイニ夫人と姉のアサヒが優しかったことだろう。

 アサヒとは姉弟というより、双子のように一緒に遊んで一緒に勉強して育った。

 貴族のたしなみとして、音楽演奏、社交ダンス、絵画鑑賞を家庭教師から学び、ユウキはさらに剣術、アサヒは裁縫を習った。


 毎日習い事ばかりで息が詰まる。

 たまには子供らしく遊びたい二人は、ソコレイニ夫人が舞踏会に出かけた夜には自由に遊んでいた。

 屋敷の外には行けないので、室内のかくれんぼとなるが、二人ですればこれも最高に楽しい遊びとなる。


 どこに隠れようかと迷っていたアサヒは、ソコレイニ夫人のクローゼットに隠れた。

 ドアには空気を通す格子状の隙間があり、外の様子が隙間から伺える。

「もういいよー」

 中から叫んでも、ユウキまで声は届かない。

 10数え終わったユウキは、さきほどのアサヒの声の大きさと方向からあたりをつけて捜しに向かった。

「こっちかな?」

 ソコレイニ夫人の寝室、衣裳部屋、庭を眺めながらお茶を飲むための小部屋が並ぶ一角。

 順番に見ていく。


 寝室に入ると一周した。

「どこかな?」

 ベッドの下、鏡台の陰を捜して回る。

(おや?)

 クローゼットの扉が少しだけ開いている。

 召使いがきちんと閉めるはずなので、中途半端に開いていることは絶対にない。

 つまり、この中にアサヒが隠れているということ。

「バア!」

 ユウキは、わざと大声で脅かしながら勢いよく開けた。

 誰もいないと恥ずかしいが、アサヒの驚く顔があったので大喜びした。

「みーつけた!」

「キャハハハハ!」

 アサヒが見つけられて笑い出したので、ユウキも釣られて笑った。

「アハハハ! 簡単だったよ!」

「もう、やだあ!」

 クローゼットから飛び出たアサヒがユウキに抱き着いた。

 そのまま、ゴロゴロと二人で抱き合ったまま転がる。


 ユウキとアサヒは、二人でいると笑いが絶えない。

 お互いにこんなに気が合う相手はほかにいないと幸せを感じていた。

「アサヒ……」

「ユウキ……」

 頬を寄せ合うと、お互いの温もりを感じる。


 ユウキはアサヒから離れがたくていつまでも抱き合っていたかったが、アサヒはそうでもなく体を離した。

「今度は私が鬼ね」

「うん」

 二人は役を交代した。

 玄関ホールまで戻って、アサヒは目を閉じで10数える。

 ユウキは走り出した。

 迷わず、アサヒが隠れたクローゼットを選ぶ。

(同じ場所を選ぶとは思わないだろう)

 自分は抜かりなくきちんと扉を閉める。

 ソコレイニ夫人のクローゼットは、服が数点しか掛かっていない。

 衣裳部屋があるから、ここに詰め込む必要がないのだろう。


 待っている間、ユウキは金属の取っ手に気付いた。底の敷板についている。

「こんなところに取っ手?」

 上に開けるようだが、自分が乗っているので開けられない。

(あ、きた!)

 アサヒいの気配を感じたので息をひそめる。

 足音がクローゼットに近づく。

 こちらから飛び出して脅かしてやろうと構えた。

 クローゼットの扉が動いた瞬間、「ワッ」と大声を出して驚かせると、アサヒは、「キャア!」と悲鳴を上げてしりもちをついた。

「アハハハ! 引っかかった!」

「酷いよう! そっちが脅かすなんて!」

 アサヒは今にも泣きそうになったので、ユウキは焦った。

「ごめん、ごめん、悪かった」


 アサヒは、泣き真似を止めてアッカンベー。

「ベエーだ!」

「騙したな!」

「ユウキが悪い!」

 言葉とは裏腹に、ユウキは大笑い。アサヒも笑った。

「アハハハ!」

 二人は疲れるまで笑った。


「あー、面白かった。あ、そうだ。こんなもの見つけたんだけど」

 ユウキは、クローゼット内の取っ手についてアサヒに教えた。

「これ、何だと思う?」

「上に開けられるんじゃない?」

 取っ手をつかんで持ち上げると、中に隠し階段を見つけて驚いた。

「えー、これって、どこにつながっているんだろう?」


「行ってみる?」

 ソコレイニ夫人が留守の時しか入れないから、二人は冒険してみることにした。

 真っ暗だったので、ランタンをそれぞれが手に持ち、慎重に階段を下りる。

 大人一人がやっと通れる広さ。

 ユウキとアサヒなら余裕だ。

「こわーい」

「僕がついているよ」

 アサヒはユウキにしがみつく。

 そんなアサヒを守ってやらなきゃと、騎士道精神を思い出した。


 道は一本しかない。

 しばらく歩いていくと、階段があった。

「出口かな」

 天井が板で塞がれている。

「開けられる?」

「やってみる」

 ユウキは、ランタンをアサヒに預けると両手で板を持ち上げた。

 ゆっくり上げていくと、庭が見えた。

「庭に出たよ」

 アサヒも隣から覗いた。

「本当だ。これ、屋敷から庭へ通じる抜け道だったんだね」

「知らなかったなあ」

 なぜこんなものがあるのか知らないが、通路に蜘蛛の巣や虫の死骸などなく、板も使いこまれて最近も誰かが使った形跡がある。

 考えられるのは、ソコレイニ夫人が使用しているということだ。

 ――でも、何のために?

 その意味を理解できるには、二人がもっと大人になる必要があった。

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