サリルリ妃戴冠式
バラストゥル王が崩御された。それも暗殺という非常事態で。
犯人はすぐに捕まったが、頭のおかしな男だった。
「神が我に命じたのだ……。国王は悪であるから葬れと……」
おかしなことをぶつぶつと呟く。
本人の供述は論理的ではなく、犯行の動機や背景は不明のままとなった。
捕まえた翌日には獄中で服毒自殺をされてしまった。
誰が彼に毒を飲ませたのか、それは誰にも分からない謎となった。
「国葬は私が仕切ります。メローア妃とアベユマ妃は何もしなくて結構です」
サリルリ妃が国葬を取り仕切り、メローア妃とアベユマ妃の動きを封じることに成功した。
国葬を終えて喪が明けると、サリルリ妃は特別王議会を招集した。
サリルリ妃が前王に代わって議長に就任。これで国家運営を掌握。
議案を出すにはサリルリ妃の署名が必要となる特例法を制定。
バラストゥル王国はすべてサリルリ妃のものとなった。
そうなるとやりたい放題。
早速、メローア妃とアベユマ妃を処刑しようとしたが反対が激しくてこれは断念。その代わりに国外追放とした。
前王の側近、近衛兵は容赦なく処刑。
これらの強引なやり口に国民の反発が激化。
連日、サリルリ妃解任のデモ行進が王宮に向けて行われたが、サリルリ妃は意に介することなく、首謀者を逮捕、投獄、処刑した。
その反面、連日晩餐会と舞踏会を開催した。
「アッハッハッハ」
サリルリ妃は毎日高笑いだ。
「あとは、女王になるだけだわ」
いずれ息子のニーナに王位を譲位する。それが願いだ。
バラストゥル王の血筋となるニーナ王子が跡を継げば国母となる。サリルリ妃には誰も文句を言えない。
それもサリルリ妃を増長させる原因となった。
「侍従長!」
「はい! ここに」
サリルリ妃の侍従長は、カンランという名のかつての臣下。前王の侍従長はとっくに処刑している。
「私を女王に即位させる法案を、はやく大臣から提出させなさい」
「承知しました」
この国では王議会で国王即位の議案を提出。議員の過半数の賛成を得ると枢機卿により神の承認を与える戴冠式という手続きが必要であった。
枢機卿は議会が任命する。
これもサリルリ妃が自分に都合の良い人物を充てることができた。
誰も反対などしない。できない。
反対すれば処刑、もしくは暗殺。明日にも人生が終わってしまう。
財産は没収されて、家族親族までも追放される。
とことんやるのがサリルリ妃だ。
自然と反体制派が地下に結集する。
今の希望はバラストゥル王の忘れ形見であるユウキ王子である。
ユウキ王子を擁立すれば、サリルリ妃を失脚させられるだろう。
だが、正攻法では絶対に無理。
議会を通すことは無意味。
そうなるとクーデターしかないが、怪しい動きをすれば即座にスパイにリークされて潰される。
反体制派もお互いに疑心暗鬼となって、一枚岩にはなかなかなれなかった。
そうこうしているうちに議会ではサリルリ妃の即位が承認されてしまった。
あとは戴冠式だけだ。
教会でサリルリ妃の女王戴冠式が始まった。
枢機卿が宣誓してしまえば、誰にも覆すことはできなくなってしまう。
サリルリ妃が枢機卿の前で厳かにかしずく。
枢機卿が厳かに宣言する。
「神の御名に置いて、サリルリをバラストゥル国の王と……」
終了直前にユウキが飛び込んだ。
「ちょっと待った!」
「何者!」
「我はユウキ・バラストゥル。前王と第一王妃メローアとの王子。サリルリの戴冠式に物申す」
ユウキの宣言で戴冠式は中断となった。
「私が第一位の王位継承権を持っている。サリルリの女王即位は無効だ」
サリルリ妃の場合は議会の承認が必要だったが、王位継承権第一位のユウキ王子は議会の承認が不必要であることをここに付け加えよう。
ユウキの王子復権は周知の事実となっていたため、枢機卿も無視できない。
「ユウキ王子ですと」
サリルリ妃は、異変を察知した。
警護をする兵士も打ち合わせ済みなのか、誰も動かない。
「おのれ……、おぬしら結託済みか……」
サリルリ妃は、ユウキに情けを掛けて亡き者にしなかったことを悔んだ。
(あの夜さえなければ……)
ユウキを躊躇いもなく殺せたのにと、己の不覚を悔いたのだった。




