サリルリ妃が見せた顔
サリルリ妃は、恍惚とした顔でユウキに聞いた。
「年は?」
「18です」
「若いわねえ」
そういうと、よいしょと上半身を起こしてガウンを羽織る。
「ぎこちなさがフレッシュでいいわ」
「申し訳ございません……」
「気にしなくていいのよ。むしろ、楽しい。……何か飲みましょう。そうだ、とっておきのワインを開けましょう」
「いえ、大丈夫です」
「遠慮はいらないわ」
ベルを鳴らして侍女を呼んだ。
ここはサリルリ妃だけが住んでいる館。しかも二人で寝室にいた。
ダンス中にサリルリ妃から、『誰にも内緒で一人だけで私の館に来て』と、耳打ちされてこうなった。
チーズをつまみにワインを飲む。
開けたばかりのワインは大丈夫だろうと、ユウキも口にした。
「私のこと、どう思う?」
「美しいです」
「メローア妃と比べて、どちらが綺麗?」
「もちろん、あなた様です」
女神のような美しさのメローア妃と比べるとはおこがましいと思っていても、口では正反対の嘘を吐く。
「アベユマ妃と比べたら?」
「あなた様です」
「どこが優れているか、具体的に述べてみて」
「あなた様の方が背が高い。肌が綺麗。髪が美しい。髪色も瞳の色も素敵です」
「嬉しい」
サリルリ妃は、満足するまで同じような質問を繰り返してきて、ユウキはいささかげんなりした。
サリルリ妃の顔を見ていると、あの夜のゲーリーとの会話が頭をよぎる。
『もしサリルリ妃から誘われても、絶対に断るなよ』
『どうして?』
『断れば、恥を掻かせたと殺される』
『そんなことが許されるのか?』
『もちろん、誰の許可も得ない。サリルリ妃の親衛隊が秘密裏に処理する。愛人になっても地獄、逃げても地獄』
『王より横暴だな』
『ああ、そうだ。みんな知っている。王以外はな。誰かが王に密告しても聞く耳を持たないのだから、諸悪の根源は王なのだろう』
『なあ、サリルリ妃から逃げおおせる方法はあるんだろうか』
『今のところ、聞いたことはない。死ぬまでサリルリ妃の手先となるしかない。利用された挙句の死刑。もしくは抗争による討ち死に。そういう意味では、俺はイケメンでなくて良かったよ』
ゲーリーは、サリルリ妃がユウキをきっと気に入るだろうと、いらない太鼓判を押した。
先見の明あり。予想通りに誘われて、ゲーリーの助言に従って断らずにここまで来た。
『もう一つ、忠告しよう』
『まだあるのか? 何?』
『サリルリ妃の館では、出された食べ物や飲み物に注意しろ』
『毒でも入っているのか?』
『ある意味、そうかもしれない。なんでも自白剤が入っているとか、いないとか。俺もそこまで事情通じゃない』
『自白剤とは、穏やかじゃないね』
媚薬とか睡眠薬とか興奮剤とかは想像の範囲内だったが、自白剤は全く予想がつかなかった。
(自白剤を使って、本当に自分を美しいと思っているのかと本音でも聞き出したいのか?)
そう考えるほど、サリルリ妃は自分が美しいかどうか聞いてくる。
中身が空虚なのだ。満たされていないから、確認したがる。
何度聞いても、無理やり言わせた口先だけの賞賛では人の気持ちは満たされない。
問題は自分にある。もっと掘り下げると、子供のころにどのように育てられたかだ。
心の充足を持てぬまま、王妃として生きていく重圧にもがき苦しんでいる。そのような見方もできる。
自分の好きなように生き、人々をたくさん殺しても、決して満たされることはない。憐れな妃なのかもしれない。
ユウキをとても気に入ったサリルリ妃は、「これからも私の相手をしてちょうだい。何か欲しいものはない? プレゼントするわ」とまで言い出した。
――欲しいものは、すべてお前が奪っていった。
危うく口から出るところだった。
「何もいりません」
「欲がないのねえ」
「サリルリ妃陛下がいてくださいますから」
「ユウキ……。嬉しいことを……」
サリルリ妃は、適当に言った言葉に感激して可愛らしい表情を見せた。
その様子を見て、もし悪魔の妃と知らなければ、自分だけに見せてくれる本当の姿だと感激して惚れてしまったかもしれない。
ユウキは騙されたりしないが、他の男たちや王の前でこのようにかわいい仕草を見せれば、簡単に騙せるだろう。
(サリルリ妃には、うまく取り入った)
あとはサリルリ妃の息の根を止めるだけ。最初からその計画でやってきた。
だが、想像以上にサリルリ妃の護りが固かった。
衝立で目隠しされているが、同じ部屋に銃を持った女の護衛が待機している。
見られてなくても物音は聞こえる。
ぎこちなかったと言われた時、護衛が気になってしまって、やりにくいことこの上なかった……と、本当は言い訳したかった。
部屋の外には男の護衛もいる。
館に入る時にボディチェックが入り、武器になりそうなものだけでなく、私物も一切持ち込めなかった。
『必要なものはこちらで用意しますから、体一つでお入りください』と、護衛に凄まれては従うしかない。
そうなると素手で殺すことになるが、護衛に異変を察知されて邪魔されるだろう。失敗の確率が高すぎて手が出せない。
自分がサリルリ妃を襲ったことで、メローア妃やシュトランス公爵に迷惑を掛けてはいけない。
やるからには確実に成功しなければならない。
サリルリ妃はユウキをすっかり信じている。
(焦る必要はない。もっともっと信用されて、護衛も必要ないほどになれば、いくらでもチャンスは巡ってくるはずだ)
サリルリ妃の身に何かあれば、バラストゥル王の報復が待っている。王が何かで失脚すれば、その時こそが最大のチャンス。
辛抱強く、時を待つことにした。




