王子誕生2
侍女トウアは、メローア妃に耳打ちした。
「私にお任せください」
護衛のものがやってきた。
「お取込み中失礼いたします。祈祷師アグワイネ様がお目通りを希望しております」
「祈祷師アグワイネだと? サリルリ妃、そなたのお抱え祈祷師だったな。呼んだのか?」
バラストゥル王はサリルリ妃に聞いたが即座に否定した。
「いえ。私は呼んでおりません」
「では、お前たちか?」
「いいえ。知りません」
メローア妃も侍女トウアも否定したが、実はこれがトウアの計画だった。
祈祷師アグワイネが勝手に入ってきた。
「どうしてもバラストゥル陛下とメローア妃陛下にお話ししたいことがございます」
「なんだ?」
祈祷師アグワイネは持っていた錫杖で生まれた王子を指した。
「その赤子は呪われておりますぞえ」
「なんだって⁉」
バラストゥル王は青ざめた。
「せっかく王子が生まれたというのに、この子も育たないというのか」
「そうではござらぬ。その赤子に関わった人間はすべて呪われてしまう。王も王妃も、このバラストゥル国も。ここに置いていてはあらゆる災いを呼び込んでしまう。すぐに手放すことです」
「なんと! そんなことが?」
(なんて、好都合!)
サリルリ妃は、自ら手を下すことなく王子を追放できるとほくそ笑んだ。
第一王女と第二王子の死について、裏で糸を引いていたのはサリルリ妃だった。
王女のおやつにゆっくり効く毒を盛り、王子の世話を任された侍女に裏金を渡して、事故に見せかけて殺させた。
さて、この王子はどうやって殺してやろうかと様子を見に来て、まさかお気に入りの祈祷師の口からこのような言葉が出てくるとは予想外であったが、これに乗っからない手はない。
「なんて恐ろしい!」
大げさに嘆いてみせる。
「陛下、一秒でも早く王宮から、いえ、この国から追い出してくださいまし。このような力のない赤子を不幸な目に遭わせるのは辛く不本意なことですが、バラストゥル王家と国民のためです」
「この子を追放しろ!」
バラストゥル王は、怒りを込めて侍女トウアに命じた。
「承知いたしました。陛下」
トウアは王子を抱き上げると、供のものたちとともに部屋を出て行った。
「ああ、私の王子……」
手を伸ばして嘆くメローア妃。それを見たサリルリ妃はほくそ笑んだ。




