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王様は魔法使い  作者: 萩野満月
第一部 名前を憶えてもらえない系女子
9/12

8.令嬢の休息


 目が覚めると、そこには花畑がみえた。


 正確は、天幕の内側に描かれた花畑がみえた。母の花嫁道具の一つである黒壇の天幕つきベットには、母が好きだったというポピーの花が描かれている。それが見えるということは、ここは、私の部屋だ。

 

 時刻は真夜中なのだろう。青々と輝いているポピーの花畑の向こう側、白い天幕の外側からうっすら灯りが見える。おそらく、夜番のメイドがそこにいるのだろう。


 エリザベットは、ゆっくりと起き上がった。額に乗せってあったのだろうか、タオルがずれ落ちた。


「っ!」


 突然の痛みにエリザベットはうづくまった。胸が痛い。息をするたびに、針を刺すような痛みがする。それになんだか、身体が熱い。


 そんなエリザベットの様子に気が付いたのか、誰かが立ち上がる音がした。そして、天幕が開かれる。


「・・・マーサ。」

「気が付かれましたのですね。エリザベットお嬢様。まだ、起き上がってはいけませんわ。」


 マーサはそういうと、エリザベットの上半身を支えながら、ゆっくりとおろしてくれた。だんだん覚醒してきたせいか、身体の不調が押し寄せてくるのを感じた。


「熱いわ、マーサ。」

「お熱が引いておりませんからね。今、タオルを変えますわ。」


 マーサは、枕元に置いてある洗面器にいき、タオルを浸してしぼり、エリザベットの頭に乗せた。顔がほてっているのだろうか、ひんやりして気持ちいい。


「このまま、お眠りくださいまし。朝になれば、もう少しましになっておりますよ。」


 マーサに言われ、大人しく目を瞑る。とっても苦しいのに、頭がふわふわしている。

 エリザベットは、うわ言のようにつぶやいた。


「ちんぷいぷい、はーらへいーら。朝には体調がよくなりますように。」





 翌朝、エリザベットは、目を覚ました。汗をかいたのだろう、ネグリジェが汗でピッタリ張り付いて気持ち悪い。しかし、体調の方は、昨夜とはうって変わり清々しい気分だ。


 マーサに着替えを手伝ってもらいながら、しばらく横になっていると、扉が開いた。


「まぁ!気が付いたのね!」


 騒々しく入ってきたのは、ミランダ夫人と父マクシミリアン、そしてアリスだ。3人とも、心配してくれていたのか、少しやつれて顔色が悪い。


「リジィ!あぁ!こんなにやつれて。貴方、1週間も寝てたのよ。覚えてる?身体は大丈夫?あぁ、女の子なのに、顔にもかすれ傷をつけて。可哀そうに。どこか痛くはない?そうだわ!お腹は空いていない?何日も食べていないもの。それとも、何かの飲み物を・・・」


「落ち着け、ミランダ。まだリジィは起きたばかりだ。」

「そうですわ、お母さま。ご心配なのはわかりますが、そんな矢継ぎ早に言ってはリジィが答えられませんわ。」


 エリザベットの手を握ったり、抱き寄せたり、頭を撫でたりと、何かと慌ただしくエリザベットが行方不明になってから今日に至るまでの経緯を説明するミランダ夫人。父様とアリスは、そんな様子を見守っている。


 ミランダ夫人がいうには、ピーターを追いかけオークの森へと入ってしまった私を、猟師のトリマーが急いで追いかけたらしい。しかし、トリマーがいざ森の中に入ると、エリザベットはどこにも見当たらない。周りを注意して観察しても、最近できたような形跡や足跡が見つからず、周りは獣道ばかり。自分だけでは手が負えないと判断したトリマーは、バトラーに事情を説明し、私兵や捜索犬たちを導入し、手分けしてエリザベットの捜索にあたった。


 しかし、どれだけ探しても見つからない。それどころか、痕跡すら見つからない現状に、捜索隊が焦りを見せ始めたころ、父と一緒に猟に行っていたはずのブイヨン男爵が突然姿を消したのだ。男爵だけでなく、パーティー会場にいた他の貴族のバトラーや騎士たちも数人行方知らずになった。


 パーティは騒然とし、捜索は混乱を極めた。

 

 そうこうしているうちに、なんと消えたはずのブイヨン男爵が、見知らぬものたちと一緒に森の中から姿を現した。父が、ブイヨン男爵に事情をきくと、次のように説明された。


 ブイヨン男爵は、狩りの途中、誰かに呼ばれたような気がして森の中へと歩いてしまい、気が付くと奇妙な一行の中に紛れていたらしい。自分でも何かがおかしいと思っていたが、不思議と足が止まらず、そのままついていった。しばらく歩いていると、突然元の場所へと帰らなければいけない気がしたそうだ。それは周りのものたちも同じだったらしく、皆が一斉に振り返り、そのまま引き返したそうだ。しばらく歩き、森の入り口を抜けると、不思議と開放された気がした。そして、少し放心気味になっていたところを、父が率いる捜索隊に発見されたらしい。


 ブイヨン男爵の話は俄に信じがたいものではあったが、一行の中にいる数人に話を聞いても、まったく同じようなことが返ってきた。更に、一行の中には、国内の騎士や大臣だけでなく、隣国の貴族や商人、中には、浮浪者や指名手配中の盗賊もいたそうで、まったくつながりみえない。ただ一つ、唯一の共通点といえば、全員の名前がピーターだったことだった。


 最初は、侯爵家の令嬢であるエリザベットを誘拐した犯人ではと疑っていた父も、この点でばらばらなピーター一行の目的がまったく見えず、捜索は更に深みに入った。


 ところが、自体が急変した。エリザベットが発見されたのだ。


 一等星が光りだす夕暮れごろ、犬の離宮へ愛犬たちを戻しに行ったメイドが、ピーターと一緒に眠りこけているエリザベットを発見したらしい。靴は土でどろどろ、ドレスはところどころ破けており、倒れたのであろうか白い頬や腕にはかすり傷がついている。


 すぐさま、医者に診せたが、肉体的な過労に伴う症状だということで大事にはならなかった。こうして

、足の速いピーターを追いかけ、オークの森から離宮へつながる抜け道かを通り、そのまま疲れて寝てしまったのだろう、という見解のもと捜索は終わったらしい。行方不明の人たちも全員無事戻ったため、この奇妙な失踪事件は解決に向かったそうだ。

 

 ちなみに、鋭い胸の痛みや身体のだるさ、高熱も、すべて()()()が原因だそうだ。どうやら、普段から動いていないエリザベットの体力は、平均的な普通の令嬢よりも体力がない。それが急に走ったことにより、回復するまでに時間がかかったそうだ。これからは、少しずつでよいので、適度に運動する必要があると医者に忠告されたらしい。


「こうして無事に発見されてよかったわ。」

「でも、もう少し体力をつけないと。このままでは舞踏会だって参加できないわ。」

「そうだな。では、シーズンが終わったら、リジィの快気祝いにみんなで別邸へいこう。」

「いい考えだわ!あそこには、観光地も美味しいお店もありますし、年末でしたらマーケットも開かれるわ。散策していれば、リジィも自然と体力もつきますわ。」

「買い物ばかりではつまりませんわ。それよりも、あそこは船があるわ。リジィ、私とクルーズを楽しみましょう。」


 いつの間にか、今年のオフシーズンは別邸で過ごすことは決定したらしい。正直、昨日の痛みのことがあるので、エリザベットにも、体力をつけるが急務であることは自覚していた。外にお出かけするのは、正直なところ好きではないが、仕方ない。エリザベットは、心の中で溜息をついた。



 3人がそれぞれ帰った後、しばらく安静を言い渡されたエリザベットはベットでごろごろしていた。


「金の腕輪。」

 

 あれは、夢ではない。左腕にはめられている腕輪がそれを象徴している。どこで手に入れたんだと問いただされ、言い訳するのは、大変だったが、なんとか没収されずにすんだ。


 ニンフの腕輪。それにしても不思議な腕輪だ。鈍い光を帯びた金は落ち着いた風合いで、表面に魚の鱗のような凹凸がついた不思議な文様。ただ、女性がもつアクセサリーにしては、少し太めで簡素なつくりだ。もしかして、男物なのだろうか。


 エリザベットは、腕輪はくるくるとまわしながら観察していると、腕と腕輪の隙間に何かが光って見えた。


 腕輪を腕から外してみると、内側に小さな宝石がいくつかはめ込まれている。まるで、星のように散りばめられた宝石は、赤や青、様々な色をしている。それにしても、何故、内側に宝石をつけたのだろう。外側につければ、もう少し華やかなつくりになっただろうに。

 

 そう思いながら、エリザベットはしばらくの間、腕輪を眺めて過ごした。


こんにちは、私はメイドのマリー。

数日前に雇われた新人ハウスメイドです。

実は私はスラム街出身で、些細なミスから仕事を首になり困っていたのだけれど

祖父のピーターが侯爵様のご令嬢・エリザベット様の愛犬の首輪についた鈴を発見した縁で

高齢の祖父の変わりに、雇ってもらえることになりました。

スラム街にいた祖父がなぜこちらのお屋敷にいたのかはわからないのだけれど、

こんな高給取りのお仕事に就けて本当にラッキー。

人生って本当に何が起こるかわからないですね。

私の人生も捨てたもんじゃないわ。

(by  まだまだ新人メイドのマリー)

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