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王様は魔法使い  作者: 萩野満月
第一部 名前を憶えてもらえない系女子
8/12

7.3の倍数はお約束

遅くなりましたが、投稿します。

一昨日、間違って投稿してしまいました(汗)

ここまで読んでいただいた方には、ご迷惑をおかけいたします。

2019年10月24日


「ちんぷいぷい、はーらへいーら!白いけむくじゃらの犬のピーター以外は元の場所に戻って!」


 喉がはちきれんばかりに声を張り上げてエリザベットは呪文を唱えた。

 すると、魔法が効いたのか、奇妙なピーター一行は、ぴたっと止まった。そして、おもちゃの兵隊のように一斉にくるりと方向転換し、黒いオークの森の奥へと帰っていった。


 元の場所へ戻っていったピーター一行をみて、エリザベットはその場でしりもちをついた。顔が熱くて息が苦しい。その令嬢らしからぬ振る舞いについて、女家庭教師(グーヴェルナント)の耳に入れば間違いなく大目玉をくらっただろう。


 どうやらこの魔法というものは、自分がイメージたものが実現する代物ではないらしい。呪文に続く願い事が、一般に広く使われている名詞や抽象的な内容では、希望通りの願い事はかなえられないかもしれない。それどころか、下手に願いごとを言ってしまうと、先ほどみたいに規格外のごとや大惨事になりかねない。もしかして、魔法って結構危険だったりする?


 危険な香りがしてきたので、エリザベットは魔法について詳しく訊こうと、ハッピーの方に目を向けたると、ハッピーは空中で笑い転げていた。空中だからだろうか、キトンのすそがめくれてかなり破廉恥な恰好になっている。ピーターに至っては、何故か先ほどより転げまわるスピードが速くなっている。ただでさえけむくじゃらなのに、葉っぱや土がついて使用人たちが使うモップのようだ。


 そんな二人の様子を見て、羞恥心半分、怒り半分のエリザベットは、少し驚かせようと小さく呪文を唱えた。


「ちんぷいぷい、はーらへいーら。ハッピーとピーターの顔にコップ一杯分の冷や水をかけて。」


 先ほどとは違い、具体的にを意識して呪文を唱えてみたが、呪文を唱え終わっても、特に何も起きない。ならばと思い、もう一度、今度は少し声を出して呪文を唱える。


「ちんぷいぷい、はーらへいーら。ハッピーとピーターの顔にコップ一杯分の冷や水をかけて。」


 しかし、呪文を唱え終わっても、何も起きない。


「そういえば、魔法って1日3回までだって、だれかが言ってたような。」

「えっ!?じゃあ、もう魔法が使えないってこと!?」

「1日3回だって!明日になれば、もう一度使えるからさ!」

「でも、それだとお屋敷に戻れないわ。ピーターがもう一度案内してくれるとは限らないし。それに・・・」


 それに、先ほどから足の裏が痛い。今日はお庭でのんびり過ごすだけだったので、ドレスも靴も薄手のものだ。ピーターを追いかけたあの黒いオークの森は、決して短い距離ではなかった。仮にピーターがもう一度案内してくれたとしても、この状態では途中で立ち止まってしまうだろう。

 エリザベットは、少しうつむいた。急に帰れなくなったことによる不安からだろうか、胸がぎゅるぎゅると苦しい。


 ピーターは相変わらず、仰向けになってころころ動いている。こうなったのは元はといえば、ピーターを追いかけてしまったエリザベットのせいなのだが、我関せずといわんばかりにくつろぐ白いけむくじゃらをみて、エリザベットはたまらず、ピーターの表情筋をぐにぐにとまわす。ピーターは気持ちよさそうに洗礼を受けている。


「しっかたないわね。じゃあ、これをあげるわ。」


 そんなエリザベットを見かねてか、ハッピーは腕輪を差し出した。ハッピーの身長と同じ手のひらサイズの腕輪。いったいどこから取り出しのだろうか。


「これは?」

「これはニンフの腕輪よ。これがあれば、人間界と自然界を最短で行き来できるわ。ニンフは迷いの森の番人だから、きっと力になってくれるはず。」


 ニンフ。山、川、樹木に住まう精霊で、樹々を成長させたり、病を癒す力などをもつとされる。子供の頃読んだ『騎士物語』では、騎士王に聖剣を渡した湖の貴婦人も、確か湖のニンフの一人だった。これが本当にニンフの腕輪だとしたら、かなり貴重なものに違いない。


「ありがとう。でも、これはあなたの大事なものじゃないの。」

「・・・そうだけど。スノウにあげるわ!私じゃつけられないし!」

「でも、大事なものなら、なおさら受け取れないわ。」

 

 エリザベットが受け取りを拒否すると、好意を受け取ってもらえないせいかハッピーが困った顔をした。なんだかその姿が、ドレスの試着をしていたときのミランダ様によく似ていた。


「じゃあさ!変わりに私の願いを叶えてくれる?」

「お願いごと?・・・それはどんなこと?」

「・・・それは、今はまだ決めてないから、決まったら言うわ!」


 ハッピーは苦しまぎれな表情で、そういった。

 もしかしたら、彼女なりにエリザベットを案じてくれているのかもしれない。

 どちらにせよ、屋敷に変えるためには腕輪が必要だ。ここは腕輪を素直に貰うことにした。


「わかったわ。私でなんとかできるのなら協力する。」

「もちろんよ!じゃあ、約束よ!」

「約束するわ。」


 エリザベットは今度こそ指輪を受け取り、腕にはめた。不思議とエリザベットの腕にピッタリ納まった金の指輪はほんのり温かく、先ほどの不安が和らいだ気がした。


「あと、人間界と自然界を行き来するのは本来ご法度なの。

 だから、他の人間にははなしちゃだめよ。家族にも友達にも。みんなにはないしょだよ。」


 ハッピーは、真剣な顔で忠告している。先ほどは打って変わった様子にドギマギしながら、エリザベットはゆっくりうなずいた。

 

 そもそもドワーフやニンフは童話の中の話だ。勝手に森の中に入ったことの下手な言い訳にしか聞こえないだろう。妙な呪文を使うという噂なんて流れでもしたら、最悪、頭がおかしくなったと、教会に幽閉されかねない。


「じゃあ、そろそろ帰ったほうがいいわ。スノウ。本当は、今からスプランドゥールを案内したかったのだけど、一等星が出始めたからだめね。夜のスプランドゥールは熱いから、人間には耐えられないだろうし。」


 残念といいながら、後ろを向くハッピー。


「じゃあ!スノウ。次にここにくるなら私に連絡してね。見晴らしの丘でニンフの腕輪を天に向かってかざしたらわかるから。」

 

 そういうと、エリザベットの返事も待たずに、風のようにどこかに飛んで行ってしまった。


 見晴らしの丘は、夕陽に照らされて茜色に染まっている。もうすぐ父が狩りを終えて、屋敷に戻る時間だ。今頃、屋敷では突然いなくなったエリザベットを、マーサたちが血眼になって探しているだろう。今日は、久しぶりに反省室に入れられるかもしれない。


「そろそろ帰ろう、ピーター。」

「キャン!」


 エリザベットは足取り重く、すっかり薄汚れたけむくじゃらと一緒に黒いオークの森へと引き返すのだった。

ハッピーですか?ハッピーだよ。

最近、人間界ではガトー・インビジブルってお菓子が流行ってるそうね。

なんでも何層にも重なった断面がとっても綺麗で人気らしいよ。


スプランドゥールでもお菓子作りが盛んで、アゲット(瑪瑙)っていう似たようなお菓子があるわ。

赤蜜、白蜜、黒蜜の三種の蜜を重ねて、溶岩の炉で固めた蜜菓子で、

その名の通り、アゲットに似た断面をもつお菓子なんだけど、

白蜜のさっくりとした触感と、

甘酸っぱい赤蜜とほろ苦い黒蜜が繰り出す絶妙なハーモニーがたまらないの。

考えただけで、お腹が空いてきたわ。

みんなも、いつか食べてみてね。

(by 甘いものは正義なハッピー)

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