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王様は魔法使い  作者: 萩野満月
第一部 名前を憶えてもらえない系女子
7/12

6.ほら、あのこがかけてくる


「えっ?」


 あっけんからんと、爆弾発言を投下したドワーフ・ハッピー。


「少しお待ちになって。」

「えーー!どうして?」


 それはこちらのセリフだという思いを飲み込んで

 ひとまず、情報整理ということで、私は、ハッピーにこれまでの経緯を話した。お姉さまとのんびりしていたこと、林檎が好きな愛犬・ピーターのこと、そのピーターが急にオークの森へ入ってしまったこと、それをエリザベットが追いかけたこと、そして迷子になってしまったこと。オークの森を抜けた先の草原でハッピーと出会うまでの経緯を話すと、ハッピーは面白そうに口を開いた。


「じゃあ、今スノウは迷子なんだね!なら、尚更、戻らないほうがいいよ。」

「どういうこと?」


 ハッピーがいうには、ここは《見晴らしの丘》という場所で、黒いオークの森はその名もずばりの《迷いの森》というらしい。迷いの森に一度入ってしまうと、《導き手》がいないと方向感覚がわからなくなり迷子になってしまうそうだ。私の場合、ピーターが導き手となり、森を先導してくれたおかげで、迷わず見晴らしの丘にくることができたということらしい。

 ちなみに、ハッピーは私のことを”エリザベット”とは呼ばず、”スノウ”とよんだ。どうやら、私への白雪姫疑惑は彼女の中では、確信に近いらしい。正直、名前を間違えられるのは心外だけど。

 そんな私の心情を知ってか、知らないふりか、ハッピーは自分の考えを話し出す。

 

「導き手がいたということは、スノウは誰から招かれたってことよね。スノウを導いたのだから、きっとドワーフの王・ドヴェルグか、エルフの女王アールヴのどちらかね。でも・・・」

 何やら聞きなれない単語をぶつぶつと語るハッピー。ぶーんとエリザベットの周りを旋回するその様子は、蝶々というよりは、コバエのようだ。エリザベットの周りを5往復した頃、ようやく答えがでたのか、ハッピーはエリザベットの正面に回り、いきよくはなす。


「やっぱり、私たちドワーフが住むドワーフの谷(スプランドゥール)にいくのが一番だわ!人間界(メインランド)に戻るにしても、ドックに聞かないとわからないし!そうしましょう!スノウ!」


 スノウというのは、やめてほしいと苦々しく思いつつ、エリザベットは考える。

 

 確かにハッピーがいうように、今の自分には元の黒い森に戻ろうにも、薄暗いあの森で一人で戻るのは危険な気がする。それにここにはピーターがいない。ピーターが導き手だというハッピーの主張を全面に信じるわけではないけれど、ピーターをこのまま置いていくわけにもいかない。

 でも、今日はじめてあったハッピーについていくのも不安だ。物語では、妖精と人間の子供を取り換えるチェンジチルドレンもある。ハッピーが嘘をついているとも考えにくいけれど、ドワーフっていうのも本当のところ怪しい。

 ならば、どうすればいいか。


「・・・魔法で戻れないのかしら。」


 エリザベットがそういうと、ハッピーは予想外とでもいうかのように真ん丸に目を見開いて固まった。

「魔法で?確かに戻れるかもしれないけど・・・そう!ピーターはどうするの?大事な友達なんでしょう?」

「それも魔法でさがしてみましょう。」


 せっかく魔法という便利なものがあるのだから、使わない手はない。前は急げだわ。また、あの恥ずかしい呪文を唱えるのは少し嫌だけど、今は恥ずかしがっている場合ではない。


「ちんぷいぷい、はーらへいーら。ピーターをここに連れてきて。」


 よどみなくエリザベットが唱えると、まるでそれに応える可能用に風が通り抜けた。

 エリザベットは、風が通り抜けた注意深くみた。すると、はるか向こうの草原から、小さな影がうっすらみえた。


「ピーターだわ!」


 白いけむくじゃらの犬が、舌を出しながらこちらに向かって駆けてくる。


「ピーター!どこにいってたの!探したんだから!」

 

 迷わずエリザベットの元に駆けてくるピーターを、思わず抱きしめた。もふもふする毛並みと心地よい体温の温かさに触れて、エリザベットはちょっぴり泣きそうになった。


「あら?あれは何かしら?」


 ハッピーが指さすその先は、黒いオークの森だ。先ほどとは違い、暗い森の中で、淡いオレンジ色の灯りがいくつも見える。不思議に思って、目を凝らして見ると、どうやらランタンの光のようだ。


 少しずつ近づくその灯りは、よくみれば一列に連なっている。小さな子供を先頭に、黒いキャスケット帽を被った猟師、茶色い犬、馬に乗った騎士、太った商人風の男、怪しげな斧を持った男、ドレスを着た男、羊飼いと羊。人間や動物がおもちゃの兵隊のようにこちらに向かっている。そのほとんどが知らない人ばかりだ。


 どんどん近づくの行列に、エリザベットは見覚えのある人を発見した。


 ブイヨン男爵。父の友人で、よく一緒に狩りに興じている。今日のパーティーにも参加しており、黒いキャスケット帽と緑のチョッキを着て、茶色のポインターを引き連れて狩りに興じていた。


 しかし、ブイヨン男爵は社交的で、一人で行動しているところをみたことがない。それに一人で行動するにしても、彼の従者が控えているのが普通だ。では、何故、ブイヨン男爵がここに向かっているのだろう。


”ちんぷいぷい、はーらへいーら。ピーターをここに連れてきて。”


 先ほど唱えた呪文を思い出して、エリザベットは叫んだ!


「ちんぷいぷい、はーらへいーら!白いけむくじゃらの犬のピーター以外は元の場所に戻って!」


もうすぐハロウィンですね。私はアリス様の侍女グレンダです。


この国でも、秋の終わりにハロウィンがあります。

各家庭では、林檎、カボチャ、白いクリームの三種のパイが作られます。

夜になると、仮装した人々が屋敷にやってきて、パイをねだります。

お姫様と小人の恰好をした子供たちには、林檎のパイを、

それ以外の仮装した子供たちには、カボチャのパイが振舞われます。

そして、パイを食べ終わった頃にやってくるモーヴェに扮した大人がやってくると

子供たちが一斉に白いクリームパイを投げつけ追い払います。

全力で逃げるモーヴェたちが門の外まで逃げるのを見届けると、

村中の人々が広場に集まって焚火台に火を灯し、ご先祖様の霊と一緒にお酒を飲みます。

お酒を飲み損ねたモーヴェ役の人には、

次の日に1年分のお酒が贈呈されるため、毎年モーヴェ役は争奪戦になっています。


ちなみに、今年のモーヴェ役は、私です。

(by アリス様の侍女 グレンダ)

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