5.ハッピーのハッピーな一日
ドワーフ族の娘・ハッピー視点です。
私の名前は、ハッピー。
ドワーフ族の娘。
金色のくるくるな髪が自慢の150歳の女の子だよ。
ここは、自然界にあるドワーフの谷、《スプランドゥール》。
緑豊かな草原《見晴らしの丘》の地下にあるキラッキラな国。
ダイヤモンドの王宮、
金の川、エメラルドの丘に
ルビー、サファイア、琥珀でできたカラフルなお家。
街は真珠のランプによって照らされ、透き通った水晶の道をドワーフたちが通る。
通りに面した大きなガラスの通りは、様々な糖蜜や白い布が売られている。
そんなスプランドゥールで、
今、大流行しているのが、この肌が透けるキトン。
布1枚でできているから、作るのも着るのも楽だし。
ぶっちゃけ、ここは地下にあるから暑いのよ。
人間的にはこの格好はアウトらしいけど、ドワーフは乳首がないから許してほしい。
そもそもドワーフは性別ないし。
ちなみに、私たちドワーフは木の根っこから生まれる。
子供が欲しいなと思ったドワーフが、自身の髪の毛を閉じ込めた宝石を木の根っこに埋めこんで、埋め込んだ根元にお花の蜜を垂らすと産まれるらしい。埋め込んだ木が大樹であればあるほど、私たちは長く生きられる、なんて逸話があるけど、実際のところ真っ赤な嘘だったりする。
ま、そんなどうでもよいことはおいといて。
今日はとってもハッピーなの。
何がハッピーかというと、
ミツバチを追いかけまわして拝借した蜜を舐めてたら
偶然にも白雪姫に出会えた。
子供の頃から先輩ドワーフに聞かされたご伽噺。
7人の英雄たちが、人間のお姫様を救うお話。
白雪姫は、ドジで天然なお姫様。
ちょっと夢見がちで幼稚的なところが強くて
あまり好きではなかったのよね。
留守中の小人の家を勝手に掃除して、使ったり、
小人が散々注意しているのに、不審者を招き入れたり、
知らない人からの贈り物勝手に食べちゃうし。
おまけに自分を攫ってくれって歌うあたりなんて、かなりやばい子だよね。
狂気の沙汰としか思えないよ。
そもそも白雪姫は魔法使いなんだから
自分で願いをかなえればいいじゃないとか、
小さい頃はともだちとよく突っ込み合戦をしてたんだよね。
そんなデンジャラスな白雪姫だけど
本当に実在しただなんて、びっくりしたわ。
オニキスのように艶のある黒髪、真珠のように白い肌、珊瑚のように赤い頬に唇をもつ繊細な彫刻のような女の子。なるほど、観賞用にガラスの棺にいれたくなるわけだ。
でも、当の本人は自分が白雪姫だという自覚はないみたい。
それどころか、自分の名前はエリザなんとかだってめちゃくちゃ怒ってた。
性格も物語みたいに夢見がちというよりは、子供とは思えないほどとっても冷静で自分がどう立ち振る舞えばいいか思案してるような目をしていた。
うーん、王女じゃないのに魔法が使えるなんておかしいし、
あの容姿だって、物語通りなんだもん。ここまで瓜二つなんてことあるのかしら。
とりあえず、ドックにでも訊いてみないと何ともいえない。
まー、そんなことはどうでもいい。
だって、あの娘・スノウは魔法使いだもの。
なんでも、人間たちは我欲の塊で、異種族だけでなく、同族同士の争いもいとわないそうよ。
自分で望んでおいて、後で自分に都合が悪いからって、
娘まで手にかけようとするだなんて、あんまりだわ。
魔法使いがどうして狡賢い人間たちの中からしか産まれてこないかは謎だけど。
だから、小人は白雪姫を見つけたら人間から保護しなければならない。
代わりに、白雪姫は私たちに幸せを運んでくれる。
まさに、Win-Winな関係ね!
だって、魔法があればなんでもかなえられる。
仕事をさぼっても、勉強しなくても、何にも心配いらない。
これからは、子供も大人も、食べて、歌って、踊って、楽しく暮らせばいい。
それに、あの子も
もしかしたらもう一度戻ってきてくれるかもしれない。
あんなアンハッピーな一日はもう二度とこない。
だって、白雪姫はハッピーな魔法使いだから。
皆さん、ハッピーですか?ハッピーだよ。
最近、メインランド(人間界)は、台風とかで忙しいみたいね。
ちなみに、スプランドゥールは、雨が降らないんだよ。
だって、地下だもの。
でも、見晴らしの丘で集中豪雨が続くと雨漏りが大変なんだよね。
雨漏りするとドワーフのみんなは琥珀色に染まっちゃうからさ。
だから、みんな白い布で作った服しか着てないの。なんだか残念だよね。
皆も、台風来る前は気をつけるんだぞ。
(by みんなのビタミン・ハッピー)