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王様は魔法使い  作者: 萩野満月
第一部 名前を憶えてもらえない系女子
5/12

4.ドワーフは妖精で、私は魔法使い

 

 黒いオークの森を抜けると、そこは青い世界だった。

 季節は秋だというのに、まるで初夏の如く、青々とした植物が一面に広がっている。時々、すーっと通り抜けるかのような夏風が、植物を撫でるかのようになびかせる。


「ピーター!どこ!?」

 これだけ見通しがいい草原なのに、白い毛むくじゃらの姿がない。

 森の中ではないせいか、先ほどまで響いたやまびこも返ってこなくなった。


 あたりは誰もいない。何も聞こえない。あたり一面物静かだ。

 そう思うと、エリザベットは急に怖くなった。


 幸い一本道だったので、引き返せばお屋敷に戻れるはずだ。そう思い、振り返った。


「ごきげんよう、ハッピーですか?」



 エリザベットは固まった。例えば、本に没頭していたときに急に話しかけられた場合、人は反射的に固まることがある。だだ広い草原の中、だれもいないと油断していた場合もそれに当てはまる。当てはまるはずだ。

 だが、エリザベットが驚いているのは、それが原因ではない。例えるなら、夜に見上げた月が赤黒くなっていたような、赤い塗料を塗ったのに、キャンパスには緑色の絵具が付着したような、そんな驚き。


 今、彼女に話かけているのは、人だ。

 間違いなく人だ。

 ただし、彼女は手のひらサイズだった。


「あ、あなた、・・・・妖精さんなの?」

「違うわ!私は、この森のドワーフ族が娘!ハッピーよ!」

 金色の羽でふわふわ浮いて、色白で金髪、肌が透けるくらい薄いキトンを着た女の姿をした妖精、・・・もとい、ドワーフ。

「ドワーフさんですか。想像していましたのと随分と差があるのですが。」

「フフフ!人間の噂なんて、あてにならないわよ!私たちのこと見えないんですもの!」

 くるくると踊るように飛ぶドハッピー。なぜ、こんなにもテンションが高いのだろうと、危うく現実逃避しかけたエリザベットをしり目に、ハッピーは空中で寝転びながら話しかけてきた。

「それにしても驚いた!私が見える人間がいるだなんて!

 もしかして、あなた、()()()なの?」

「違います。私の名前はエリザベットです。」

 少しばかり癪に障ったので、思わず冷たく言い返してしまった。しかし、ハッピーは特に気にもせずに話だす。

「じゃあ、白雪姫じゃないとすると、王女様かしら。

 でも変ね、今の王女の中にエリザベットという娘はいなかったとおもうのだけど。」

「私は、侯爵家の娘です。」

「本当に?本当に?本当に?小さい頃、誰かにさらわれたとかじゃない?」

「!違います!」

 とんでもない!と思わず、エリザベットは叫んでしまった。

 叫んだことに羞恥心を持ち、コホンと咳をし落ち着きを取り戻す。

「それで、妖・・・ドワーフさんは、どうして私が王女だと?」


「それは、あなたが魔法使いだから!」

「ま、魔法使い?」

 何を言い出すのだと、エリザベットは身構える。

「私が魔法使い?」

「あら、信じてないのね。じゃあ、試しに魔法を使ってみるといいわ。」

 そういうと、先ほどよりも早くくるくると回ってハッピーは呪文を唱えた。


「ちちんぷいぷい、はーらへーいら。花を咲きなさい!」


 しかし、何も起きなかった。


「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・ほら、あなたが唱えないと意味ないじゃない。」

「えっ!?私が唱えるの?ハッピーは魔法が使えるのではないの?」

「何いってるの?私は、ドワーフなのよ。ドワーフは木こりの一族。人間の言葉を知らないのに、魔法が使えるわけないじゃない。」

「人の言葉がわからないって、私たちお話できているわ。」

「それは、あなたが魔法使いだから。あなたの耳と口が私たちの言葉を理解してるだけよ。」

 エリザベットは困った。彼女の自信満々な態度から、どうやらエリザベットが魔法使いだと信じて疑わないようだ。しかし、先ほどの呪文。はっきりいうと、恥ずかしい。かなり恥ずかしい。流石のミランダ様でも絶対唱えないだろう。

 だが、目の前にいるドワーフはエリザベットが呪文を唱えるまで帰さない気がする。というより、目がそう言っている。


 エリザベットは、しばらくハッピーの熱いまなざしとエリザベットの中の羞恥心と葛藤させたが、ハッピーが折れないことを悟るとおとなしく唱えることにした。

 エリザベットは、恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら、この恥ずかしい呪文を、唱えた。


「ち、ちんぷいぷい、はーらへいーら。花を咲きなさい。」




 ぽこっ、ぽこっ


 ぽこっ、ぽこっ、と音をたて、緑の芽がが土から出てきてた。そのまま、二枚の葉っぱになり、茎がのび、葉が増え、どんどん成長していく。そしてついに先ほどまで草原だった場所が、気づけばあたり一面花畑になっていた。


「本当に、咲いたわ!」

「だから言ってるじゃない!あなたは魔法使いだって!」


 それ見たことかと、鼻高々に胸を強調するハッピー。そして、お花が咲いたことで興奮気味なエリザベットに向かって爆弾を投下するのであった。


「じゃあ、魔法も覚えたということで。とりあえず、わたくしたちとこの国から一緒に逃げましょう!」

「・・・えっ?」

はじめまして!みんなのハッピーだよ!

これからもよろしくね。

ちなみに、ドワーフは、紅茶より蜜茶が好きだよ。

後、コーヒーはアレルギーがあるから、飲めないよ。

もし、どこかで会ったら、蜜茶を奢ってね!じゃ!

(by みんなのアイドル・ハッピー)


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