2.午後の紅茶はミルク色
「リジィ!」
マーサとほのぼのとお茶を楽しんでいると、ドアの向こうから声が聞こえる。
「あら。エリーお姉さまだわ。どうしたのかしら?」
不思議に思っていると、勢いよくドアが開かれた。
お人形のような艶のある金糸の巻き髪をハープアップにし、気の強そうな青い瞳をもつ背の高い女性。
彼女の名前は、アリス。愛称はエリー。
私のお姉さまである。
「リジィ!私のパラソルをしりませんか?この間、一緒に買い物行った際に買った白のパラソルなのですが。」
「ぞんじませんわ。」
「まぁ、そうなの。あなたなら知ってると思ったのですが。」
私が、ふるふると、首をふると、困ったわと優雅に頬に手を当てながら、こちらに歩み寄るお姉さま。
すると、隣でお茶の準備をしていたマーサが、思い出したかのように言った。
「そういえば、先ほど、ミランダ様がお持ちになっていたような。」
「まぁ!またですの!」
心底あきれた表情で、連れてきた侍女のグレンダが引いた椅子に座りこむエリー。
「お母さまったら、また、あのフリフリピンクのパラソルを持っていかせる気ね!」
エリーがまとうドレスは、白いリボンのついた若葉色のシンプルなドレス。
以前かった金の刺繍が入った白色の上品なパラソルを持てば、清楚なレディに仕上がっただっただろうに。
以前お母さまが、エリーにプレゼントしていたパラソルは、小さいお子様が好みそうなピンクのリボンと白のフリフリのレースがふんだんに使われたもので、確かに可愛らしいのだが、16歳のお姉さまには辛いものだろう。
「せっかく、今日はロッシュ侯爵家の夜会にご招待いただいたというのに。また、浮いてしまうわ。」
「それはまた、大変ですわ。」
「本当よ、お母さまには困ったものだわ。」
「エリーお姉さま。私のレースのパラソルお使いになりますか?」
「ありがとう、リジィ。でも、大丈夫よ。今日は夜会だから、パラソルは開かないでしょうし、あなたとお話したから少し落ち着いたわ。」
そういうと、マーサがこぼれたカップをもち、優雅に口をつける。
「・・・私もはやく、お姉さまと一緒に夜会に出てみたいです。」
「もう!リジィはおませさんね。貴方も今年で、12歳なのだから、あと1年たてば、招待されるわよ。」
この国では、夜会に出席できるのは、14歳からである。これは、婚姻可能な16歳までの準備期間として2年前より参加するようにと定められているからである。もちろん、家通しのお茶会には参加は可能であるが、基本的には、今朝参加したモーニングパーティーやお茶会などが、子供たちの社交場として位置づけられている。
「さて、そろそろ出かけようかしら。ごめんなさいね。急に来てしまって。」
「いえ、私もお姉さまとお話できて楽しかったですわ。」
「まぁ、嬉しいこと。今日はお土産を持って帰らなくちゃね。」
「期待してお待ちしておりますわ。」
ドアの音がしまると、少し静かになった。
「替えのお茶はいかがいたしますか。」
「ええ。お願いするわ。」
仲が良い姉妹である私たちではあるが、実は母親が違う。
エリーの母、ミランダ・オーグリーは、父の再婚相手の女性。
つまりは私の継母である。
ミランダ様は、オーグリー公爵家の末娘で、もともとは同じ公爵家のウォルト家に嫁いだのだけど、夫婦仲が悪く、夫のウォルト公爵の不貞疑惑であえなく離婚。
同じく男やもめだった父と運命の出会いを経て、再婚。
前公爵との間にできた姉・アリス・ローズ・オーグリーとともに、5年前から一緒にすむことになった。
私とミランダ様とは仲が悪いというわけではないけれど、
ミランダ様は少し少女趣味なところがあって、少し苦手。
レースやリボンが大好きで、ピンクや赤など可愛らしいものが好きなミランダ様に
あれよこれよと、着せ替え人形状態のアリスとエリザベット。
そのせいか、血はつながらなくとも同じ苦楽をともにした姉妹は仲良くなった。
月日は流れ、最近自分たちの好みの服を選べるようになった
アリスやエリザベットは、同世代の少女に比べて大人っぽい色や小物を選ぶことが多くなった。
それが複雑なミランダ様は、今日のように突然代わりのものをおくようになった。
「悪い人ではないのだけどね。」
「お嬢様方が可愛らしいからですよ。女親は子供をめでたいと思うものなのです。」
「それは、嬉しいのだけど」
「さぁ、お嬢様。本日のチーズケーキですよ。」
白いつやつやとしたチーズケーキの上に、赤いラズベリーが載っている。
差し出されたチーズケーキを食べる前に、紅茶を含む。
今日の紅茶も甘くて、美味しい。けど、ほんのちょっぴり苦みもあった。