1.私の名前は、エリザベット
私、エリザベットには、悩みがある。
「これはこれは、レディ・ホワイト。」
「まぁ!シシィ!相変わらず、可愛らしいですわ。」
「はじめまして、マーガレット嬢。」
煌びやかなシャンデリアと豪華な赤い絨毯をしかれた大きなホール。ある者は、館の主に挨拶し、ある者は、子供を連れ添い和やかに歓談している。そんな中、館の主人の娘である少女は、子供らしい可愛らしい声で声をかけ、笑顔むける。
「ごきげんよう、皆様。」
そんな可愛らしい表情とは裏腹に、少女は自身の胃がねじれそうになるのを感じていた。
「私の名前は、エリザベットですわ!」
自室に戻ると、窓に向かって思わず叫んでしまった。
もちろん白い窓枠の窓はきっちりとしまっている。
「まぁまぁ、リジィお嬢様。そうお気を落とさずに。」
「だって、みんな私の名前忘れたかのように言うのですもの。
今回なんてひどいのよ!ダドリー伯爵にマーガレットって呼ばれたわ。
きっとレディ・ホワイトだけ覚えてたんでしょうけど。」
「あらあら。困った殿方だこと。」
侍女のマーサが困ったように微笑んでいる。
私の悩み、それは”名前を間違えられる”だ。
私の名前は、エリザベット。愛称はリジィ。
私が産まれる日、「雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪な子供が生まれるように」と願った母。母の願い通りの容貌で産まれた私は、御伽噺に出てくる「白雪」のようだと口々に言い合った。そのせいか、ほとんどの人々は、「白雪」と名付けられると信じて疑わなかった。
しかし、私が生まれたトランティニャン家では、代々、産まれた子供が男ならば「フィリップ」、女ならば「エリザベット」と名付けられる。トランティニャン家の長女として生を受けた私も、母の願いはどうであれ、その慣例に従い「エリザベット」と名付けられた。
月日が流れ、お茶会に出席できるようになってからというもの、平和が続き暇を持て余した貴族たちによって、「トランティニャン家の長女は、白雪姫のようだ」から「トランティニャン家の娘は、白雪だ」に変わってしまった。
その結果、白雪からレディ・ホワイトと呼ばれるようになり、果てはそこから連想して「マーガレット(真珠)」や「マルグリット(真珠)」と呼ぶものまで現れた。
そもそも愛称だって、最初は皆、普通にリジィとかリシィとか呼んでいたわ。
でも、文通ができる頃合いから「リシィ(Lissi)」より、スペルの似ている「シシィ(Sissi)」の方が、可愛いくて呼びやすいという理由で、「シシィ」と呼ばれるようになった。
「シシィ」だなんて、エリザベットにかすりもしないじゃない!
「さぁさぁ、お嬢様。そろそろお召し変えをいたしましょう。
本日のおやつは、お嬢様のお好きなチーズケーキですわ。」
「チーズケーキ!ありがとう!マーサ。」
お気に入りのチーズケーキに思わず、マーサに抱きつく。
マーサは、少し困ったような顔をしながら、優しく頭を撫でてくれた。
きっと怒っていたから気を使ってくれたんだわ。
エリザベットは、お呼ばれ用のドレス姿から普段着のワンピースに着替え、マーサに引いてもらった椅子に座る。
「本日の紅茶は、インペリアル社のものです。」
「ありがとう、いただくわ。」
インペリアル社の紅茶はおいしい。
どれも美味しいが、特にお気に入りなのがこのスノー・ホワイト。
以前、お父様が外国から取り寄せたという白い紅茶。
紅茶なのに、ミルクのように白い色をしていて、ほのかに甘いナッツの味がする不思議なお茶だ。
名前が気に入らないけれど、紅茶と違って、ミルクやお砂糖を入れなくても甘いので
ついつい飲みすぎては、マーサに叱られる。
「リジィ!」
エリザベットが、優雅にお茶を楽しんでいると、ドアの方から声が聞こえた。
がんがん書いて、がんがん修正します。
なので、がんがん読んじゃってください。
(by 萩野満月)
責任感のない大人は嫌われますよ
(by エリザベット)
その日の満月は真ん中に大きなクレーターがあったそうな。
(by マーサ)